うつ病患者は 「医療機関での治療」 をどう捉えているか 前編
[うつ病患者の視線「病院と薬」] 2010/05/13[木]
Photographer: graur razvan ionut
うつ病の患者さんによる医療機関受診数が、このところ急増しています。厚生労働省の調査によると、日本全体の気分障害受診者数(うつ病が大半を占める)は、1999年から2008年の9年間で約2.4倍に増加し、100万人を超えました。受診した人のなかには、病気から回復した人もいれば、なかなか回復せずに困っている人もいます。
こうした受診患者さんは、医療機関での診断や治療について、どう感じているのでしょうか。回復した人とそうでない人とで、何か違いはあるのでしょうか。QLifeでは、医療機関に通院または入院してうつ病の治療を受けた患者さん1000名(回復例500名、非回復例500名)にアンケート調査を行いました。
※なお本調査は、精神科医である冨高辰一郎先生の協力、指導のもとで行われました。
1:受診をする前から、「自分はうつ病ではないか」と考えていましたか。
精神疾患の場合、一般的には自己判断は難しいと言われるが、実際には8割近くの人が受診前から自身でうつ病と疑っていた。若年層ほどその傾向は強い。ただし、20代でも16%は「まったく予想外の診断だった」としている。
2-1:精神科/心療内科を受診することに、ためらいはありましたか。
半数近い人が全くためらいを感じず、強くためらった人は23%と少数派だった。若年層ほど精神科/心療内科に抵抗感が強い。逆に50代、60代の患者は、前問の結果とあわせ「比較的に先入観ない患者が多い」と言えよう。
男性の方が、また、治療中(未回復)群の方が、ためらいがなかった割合がやや高い。
2-2:それでもあなたを受診する気にさせたのは何でしたか。
精神科/心療内科の受診にためらいがあった人の、背中を押したのは何だったのか。「治癒意欲>ためらい」となったケースもあるが、「診断必要性」「自殺危機」が踏ん切りをつけたケースも多い。一方、周囲からの働きかけが、受診きっかけになっている例も多く、「うつ病」の認知が広がっている様子が伺える。「職場」の受診勧奨に助けられている人も多い。
治したい気持ちが増大した(例)
- 改善するのであれば受診しようと思った(回復済み・男性・37歳)
- 受診する事によって苦しみが改善出来るならと、藁にもすがる思いで受診に至りました。(治療中・女性・41歳)
- 今の自分の状態が嫌でたまらなかったので、早く治したい気持ちがあったからです。(治療中・女性・30歳)
ためらいが減少した(例)
- ネット等で精神科に通うことは恥ずかしいことではないとあったから(回復済み・女性・35歳)
- 雑誌やインターネットでうつ病について取り上げられる事が多くなったから(回復済み・女性・26歳)
- テレビなどで珍しい病気ではないと知ったから(回復済み・女性・34歳)
- 普段の病院に受診するのとあまりかわらないとネットでみたいので(治療中・女性・33歳)
「証明」欲しさ(例)
- 診断書と薬が欲しかったから(回復済み・女性・33歳)
- 休業証明が必要だったので(治療中・男性・37歳)
- 具合の悪いのを家族に責め立てられたので、病気と言うことを証明しないともっとおかしくなりそうだった(治療中・女性・43歳)
- 病名をつけてほしかった。そのほうが安心したから(治療中・女性・33歳)
自殺回避(例)
- 死にたいと思うようになった自分が怖かったから。(回復済み・女性・45歳)
- 自殺を真剣に考えだしたから(治療中・男性・48歳)
- 交通事故にあえば楽になれると考えるようになったため(回復済み・男性・52歳)
- 自分で手首を切ったから仕方なく。(治療中・女性・31歳)
職場の勧め(例)
- 会社の上司、保健師の指導(回復済み・男性・43歳)
- 勤務先の人事からのアドバイス(指示)(治療中・男性・43歳)
- 会社のカウンセラーの勧め(治療中 ・女性・26歳)
- 産業医面談による診断結果により、うつ病の可能性が高いとの結果が出たため。(治療中・男性・44歳)
他科医師の勧め(例)
- 婦人科医に精神科受診を勧められたから(治療中・女性・50歳)
- 掛かり付けの先生から薦められた。(回復済み・男性・60歳)
- 口腔外科の先生に受診を勧められて(回復済み・女性・34歳)
- 外科的要因が無く、外科医から心療内科の受診を勧められた。(治療中・男性・45歳)
家族の勧め(例)
- 妻の進めの為しぶしぶ行った。(回復済み・男性・25歳)
- 両親に無理やり連れて行かれた(治療中・女性・30歳)
- 母親がしつこく言って来た(自分は遠方に住んでいた)(治療中・女性・39歳)
友人その他の勧め(例)
- 友人が心配して病院に連れて行ってくれた。(回復済み・女性・31歳)
- 両親が市の相談所で勧められ、説得させられた。(治療中・男性・39歳)
- 彼女のすすめ(治療中・男性・31歳)
3:医師によるうつ病の診断内容について、疑問を持ったことがありますか。
半数近い人が診断に疑問を抱いた。若年層の方が、また女性の方が、診断に疑いを持ちやすい。治療中群と回復群とでは、回答に大きな違いは見られない。
4-1:(医師の診断に疑問を持った人のみ)どんなふうに疑問を抱きましたか。(複数選択)
医師の診断へ疑問を持った人の65%(=全患者の31%)が、「本当に病気なのか」と思っている。医療機関を受診しない人まで含めると、多くのうつ病発症者が「病気か否か」に悩む様子が伺える。
他の精神疾患を疑う人も多く、「適応障害」「躁うつ病」「その他(パニック障害など)」の、のべ合計で48%に達した。また若年層の方が、疑い内容が具体的な傾向がある。
4-2:(医師の診断に疑問を持った人のみ)どんなふうに疑問を抱きましたか。
「その他の疑問」の具体的内容は?
「その他」を選んだ人に具体的内容を聞いたところ、以下の共通要素が浮かびあがった。精神疾患に特徴的なものもあり、「その他」選択者は15%に過ぎないものの、実際には同じ疑問を抱く患者が多い可能性がある。
診断根拠が不充分(例)
- 話を聞くだけで薬を処方されたので、不安を感じました(回復済み・女性・33歳)
- 機械的な作業で診断されたので、本当に自分の症状はそれなのか?と思った。(回復済み・女性・34歳)
- 少しだけ会話をやり取りして「薬を出します」という診療行為に疑問を抱いた(回復済み・男性・46歳)
- 型通りの症状に当てはめる診断をされた(治療中・女性・33歳)
- 病院での説明がなかば強引で納得できなかった(治療中・女性・33歳)
精神疾患でなく、他の病気(例)
- 精神的なものではなく、内臓の病気なのではないかと思っていた(回復済み・女性・34歳)
- 身体的な病からきているのではないか(回復済み・女性・30歳)
- 他に病気があり、そのせいでうつ病のような症状が出ているのではないか(回復済み・女性・37歳)
病気でなく、治らない異常
- 病気ではなく、性格が異常なのではないか(回復済み・女性・32歳)
- 本当に治るのか。気が狂ったのではないか。(回復済み・女性・40歳)
- 人格の問題では?(治療中・女性・37歳)
5:医師の、薬による治療方法について疑問を持ったことがありますか。
6割近い人が薬物治療に疑問を抱いたことがある。若年層の方が、また女性の方が、疑いを持ちやすい。強く疑いを持つ人は、全体では15%と少数派だが、20代女性に限ると32%に上る。治療中(未回復)群と回復群とでは、回答傾向に大きな違いは見られない。
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⇒ うつ病患者は 「医療機関での治療」 をどう捉えているか 後編
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