出典:家庭医学大全 6訂版(2011年)
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咽頭がん
いんとうがん

咽頭がんとは?

どんな病気か

 咽頭がんは上咽頭がん、中咽頭がん、下咽頭がんとに分かれます。解剖学的には上咽頭は鼻の突き当たりで、上方は頭蓋骨、上外側は眼があり、外側には耳管咽頭孔があり、前方は鼻腔になります。上咽頭がんでは頸部リンパ節転移も多く、多様な症状を示します。

 中咽頭は上咽頭の下方で軟口蓋の高さで区切られます。中咽頭には扁桃腺があり、前壁は舌根部(舌の付け根の部分)です。中咽頭がんでは扁桃肥大と間違えられることもあります。また中咽頭には悪性リンパ腫もしばしばみられます。

 下咽頭は中咽頭の下方で、食道入口部までが範囲です。下咽頭の前方には喉頭があります(図11図11 咽頭の位置)。

図11 咽頭の位置

 中咽頭がんや下咽頭がんでは、食道がんとの重複がんが多いのが特徴です。

原因は何か

 上咽頭がんではEBウイルスの関与がいわれています。

 中咽頭がんや下咽頭がんではアルコールやたばこ、食物、環境因子などと因果関係があるとも報告されています。

 近年、咽頭がんでは、パピローマウイルスの関与が注目されています。

症状の現れ方

①上咽頭がん

 頸部腫瘤と耳症状が最も多い症状です。耳症状としては詰まる感じや聞こえが悪いなどがあり、滲出性中耳炎と診断されている場合があります。そのほかに、物が重なって見える眼の症状、鼻出血鼻閉などの鼻症状、がんこな頭痛などいろいろな症状があります。

②中咽頭がん

 咽頭痛や嚥下痛、のどのはれた感じなどが多くみられる症状です。頸部リンパ節腫大もあります。

③下咽頭がん

 のどが詰まった感じや咽頭の違和感に始まり、嚥下痛、咽頭痛、声のかすれなどの症状が出ます。進行すると食事が通らなくなります。頸部リンパ節腫大もあります。

検査と診断

①上咽頭がん

 鼻咽腔ファイバースコープ(内視鏡)検査で直接がんを観察します。CTやMRIで腫瘍の周囲組織への広がりや浸潤の有無を検査します。遠隔転移が多いので肺転移や全身への転移を調べるため、肺CTやPET(ポジトロン放出断層撮影)などが行われます。

②中咽頭がん

 直接観察ができるので視診と触診が重要です。CT、MRIもがんの範囲やリンパ節転移を診断するのに有用です。

③下咽頭がん

 直接肉眼的に見ることはできないので、内視鏡検査による観察が必要です。そのほかに食道造影検査、CT、MRIなどを行います。最近ではNBI(狭域帯)内視鏡が有用です。表在がんなど小さいがんも容易に見つけることができます。食道の観察にも用いられています。食道がんとの重複がんを調べるためには、上部消化管ファイバースコープ(内視鏡)検査が必要です。

治療の方法

①上咽頭がん

 放射線治療と抗がん薬治療(化学療法)を組み合わせて行うのが一般的で、手術が第一選択になることはありません。放射線治療後に補助化学療法を行う方法や放射線照射に抗がん薬を同時に併用して行う方法、全身的に抗がん薬治療を行い、そのあとに局所の上咽頭を中心に放射線を照射する方法などがありますが、抗がん薬同時併用放射線照射が主流です。

 放射線治療と化学療法の2つを組み合わせることにより、治療成績は著しく向上しています。最近ではIMRT(強度変調放射線治療)により口腔乾燥を軽くすることができます。

②中咽頭がん

 I期やII期のがんでは放射線治療となります。外照射では治療後の唾液腺の分泌障害による口腔乾燥症が問題となります。また小さいがんでは、口腔内の変形は残りますが、切除もよい治療法です。

 一方、III期、IV期の進行がんでは手術治療になり、その場合には再建手術も必要になります。軟口蓋を大きく切除したり、舌根部を大きく切除した場合には嚥下機能障害が術後に生じる場合があるため、嚥下障害に対する手術が必要になります。また舌根がんが下方に進行している場合には、喉頭も合併切除します。

③下咽頭がん

 手術治療が第一選択となります。初診時にすでに進行がんになっていることが多いので、咽頭喉頭食道摘出術という下咽頭とともに喉頭を摘出する手術を行い、空腸などを用いた遊離皮弁や大胸筋皮弁などで下咽頭を再建します。その場合、喉頭がんと同様に喉頭も全摘するので、永久気管孔となり音声機能を失います。

 最近では、限局した下咽頭がんでは、がんを部分的に切除して喉頭を温存し再建する方法や、表在がんでは内視鏡で切除する手術方法もあります。また早期のがんであれば、放射線治療で治癒します。

病気に気づいたらどうする

 咽頭がんが疑われたり、咽頭がんと診断された場合には、がん専門施設や頭頸部がんの専門医のいる病院を紹介してもらい、受診するのがよいでしょう。

(執筆者:東京慈恵会医科大学耳鼻咽喉科学教授 加藤 孝邦)

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処方は医師によって決定されます。服薬は決して自己判断では行わず、必ず、医師、薬剤師に相談してください。

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東京慈恵会医科大学耳鼻咽喉科学教授 加藤孝邦

 上咽頭がんは多様な症状を示すので、内科、眼科、外科などを受診し、診断がつかないうちに耳や鼻の症状が出てきて初めて耳鼻咽喉科を受診して診断されることがしばしばあります。

 眼の症状としては物が二重に見える複視が最も多く、内科的にはがんこな頭痛、舌がもつれてろれつが回らないなどの症状があります。また、頸部がはれてきて内科や外科でリンパ節炎として治療されることもあります。このように多様な症状が現れるので注意が必要です。

 中咽頭がんでは咽頭痛や嚥下痛が多く、扁桃腺や頸部がはれているのでかぜと間違えられることがあり、注意が必要です。頸部のみがはれているのでリンパ節炎と診断され、治療を行っても、リンパ節が小さくならなかったり、逆に大きくなるような場合があります。注射針を刺して細胞の検査を行い、がんの転移と診断されることがあります。

 下咽頭がんは食道がんとの合併が多く、それも同時期に発病することがほとんどです。したがって下咽頭がんが診断されたならば、必ず食道内視鏡検査を行う必要があります。しかし、下咽頭の狭窄が強くて内視鏡が通らない場合もあります。そのような場合は、食道造影検査で大きな腫瘍がないかをチェックすることになります。

 放射線照射後に手術をする場合には、放射線照射後ならば内視鏡が通ることがあるので、再度検査をしておくことが大切です。食道内視鏡検査ではルゴール染色を行って、肉眼では見落としてしまうような小さながんを見つけることもできるので、必ずルゴールで染めて食道を診てもらうことが大切です。またNBI(狭域帯)内視鏡での検査も、小さいがんを見落とすことなく診断できるので非常に有用です。

 一方、食道がんの場合も、一度耳鼻咽喉科で下咽頭や中咽頭を診察してもらう必要があります。

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