[増加する大人のADHD] 2014/02/26[水]

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 ADHD(注意欠如・多動性障害)とは、不注意や落ち着きの無さなどの多動、考えなくすぐ行動してしまうなど衝動性の特徴を持つ発達障害のひとつで、日常活動や学習に支障をきたす状態を言います。こういったことは日常生活を送るうえで、誰にでも起こりうることですが、これらの問題の程度が非常に強い、あるいはその頻度が極端に高いなど、生活上大きな支障があると判断される場合にADHDと診断されます。ADHDは小児期から連続して存在する疾患ですが、大人になって「うつ病」や「不安障害」を併発したことで疾患が明らかになる場合もあります。そうした成人期のADHDについて、多くの患者さんの診療経験を持つ、きょう こころのクリニック 院長の姜昌勲先生にお話をうかがいました。

診断が見逃されているケースが多い成人期ADHD

 成人期ADHDの有病率はおおよそ3~5%であるといわれています。成人期ADHDは成人の慢性精神障害の中でおそらく最も診断が見逃されている疾患なのです。この疾患の特徴として、不注意や注意散漫、落ち着きのなさなどが挙げられますが、大きく「不注意優勢型」「混合型」「多動性ー衝動性優勢型」の3つのパターンがあり、私の臨床経験上は、4.5対4.5対1くらいにわけられます。そのうち、見逃されがちなのが不注意優勢型。不注意優勢型は、他のパターンに比べて集団の規律に影響を及ぼさないからですが、大人になった時に仕事や家事ができなかったり、他の症状などでクローズアップされ、受診される方も少なくありません。

成人期ADHDの世界的有病率

姜昌勲 著「明日からできる大人のADHD診療」をもとにQLife編集部が作成

うつが治らない、眠れない…もしかしたらADHDかも

きょう こころのクリニック院長 姜 昌勲先生
きょう こころのクリニック院長
姜 昌勲先生

 ADHDを持つ人のなかでは不安障害やうつ病と診断される場合が多くあるとされ、抗うつ薬や睡眠薬を服用しているのにも関わらず、なかなか効果を実感できずにいる人の中にはADHDが潜んでいる可能性があるのです。
 特に女性のADHDの場合は不注意優勢型が多いのですが、大人になってからも「〇〇ちゃん、天然ね」「あなたは本当に抜けているね」などという感じで、むしろ愛されキャラとして人気者になっている場合もあります。そうした子が社会人になったときにミスが増えて周囲に迷惑をかけたり、結婚した後に洗濯や掃除、料理ができないということになって問題が顕在化してくるのです。
 その他にもADHDは併存疾患が多く、その疾患の治療を進めていくことによって、薄皮がはがれるようにだんだん中核のADHD症状が見えてくることもあります。男性の場合は薬物やギャンブルなどへの依存性を治療していく過程でADHDが発見されたり、うつ病治療をしているのになかなか改善されないためにADHDだとわかった例も多いのです。

成人期ADHD患者に多く見られる症状

姜昌勲 著「明日からできる大人のADHD診療」をもとにQLife編集部が作成

ADHDと診断されて元気を取り戻した患者さんの例

 成人期ADHDと診断されて、症状が改善した30代の男性患者さんの例をお話しします。(この症例は患者さん個人が特定できないよう、複数の事例を組み合わせた上で、一部変更を加えております。)
 その男性は、精神科病院からの紹介でうつ病と薬物依存を訴えられて受診されました。当時は交通事故を起こしたことがきっかけで鎮痛剤を大量服用、その他に抑うつ症状もあることから複数の向精神薬も服用していました。休職し、治療に専念、家族の支えもあって薬を減らしていくことができました。しかし職場復帰に向けて相談し、産業医や会社関係者と話していましたが何を言っているのか、話がまとまらずに要点がわからない。鎮痛薬は止めて向精神薬も少しずつ減量整理して確実によくなっているはずなのに、コミュニケーションがうまくいかずに、職場や家庭でもトラブルが続く。話がまとまりかけた頃に余計な一言を言ってしまうのです。こうした行動やもともとある多動・衝動性という点、また生育歴などから、ADHDと診断。その後は薬物治療や精神療法などで多弁などの症状が改善。落ち着いてコミュニケーションが取れるようになり、仕事も継続することができています。

即効性がある薬が処方可能に

 ADHDの治療は、生活改善や認知療法などの他に薬物治療などが用いられます。まずは正しい診断があった上で、精神療法を行い、それでも問題解決が困難な場合はカウンセリング療法を連携しておこなっていき、最後に薬物治療を行うという流れを取ります。薬物治療に関しては慎重に行っていきますが、成人期ADHDの場合でもゆっくり効くものと、即効性があるもの2種類が処方可能になっていますので、状況に応じて使い分けることができるようになりました。
 ADHDは正しく対処できれば、日常生活もスムーズに問題なく行えるようになります。他の精神疾患が改善せずに困っている、複数処方されている薬を減らしたいと思っている方は専門医と相談し、ADHDも考慮に入れながら治療を行っていくことも検討してみてはいかがでしょうか。

姜 昌勲(きょう・まさのり)先生 きょう こころのクリニック 院長

姜 昌勲先生

奈良県立医科大学卒業後、安来第一病院(島根県)、垂水病院(神戸市)での勤務後、東大阪市療育センターにて、1~3才の自閉症児の診断、療育指導に従事、奈良県立奈良東養護学校での校医などを勤める。
2003年より、奈良県立医科大学精神医学講座 助手(助教)となり、同大付属病院精神科児童思春期外来を担当し、小児の発達障害や、不登校および心身症などの思春期相談に携わる。
2004年より同大付属病院精神科病棟医長を勤め、同年末開業のため退職。
2005年2月より、きょう こころのクリニック開設。2010年には、大和西大寺きょう こころのクリニックを開院。現在は学園前と西大寺の2院体制で診療にあたっている。
2012年8月より、品川にてオフィスTo-Kyoを開設。東京での個人活動を開始している。
医学博士、日本精神神経学会認定精神科専門医、精神保健指定医、臨床心理士、日本医師会認定産業医。「明日からできる大人のADHD診療」「あなたのまわりの「コミュ障」な人たち」等著書多数を執筆。
きょうクリいんちょうブログ
きょうまさのりオフィシャルサイト

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