[依存症] 2018/06/29[金]

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ゲーム依存症が深刻なのは

 現在、私たちの生活にインターネットは欠かせないものとなっています。総務省の2017年の調査では、日本におけるインターネットの人口普及率は83.5%、1億人以上の人がインターネットを利用していると報告されています。その中でも最近、人気なのが、インターネットゲーム(オンラインゲーム)です。ネットゲームを楽しむ人の数は年々増えており、特に若者の間では、大人数のユーザーたちが同時に参加するロールプレイングゲーム(MMORPG)や、シューティングゲームの一種であるFPS・TPSなどの人気が高くなっています。また、近年では複数のプレイヤーで対戦するネットゲームをeスポーツ(エレクトロニック・スポーツ)と呼び、スポーツ・競技として捉える動きも生まれています。国際サッカー連盟(FIFA)が主催する世界大会が開かれたり、オリンピックへの採用が検討されるなど、ネットゲームは全世界で広く普及してきています。

【用語】

MMORPG(Massively Multiplayer Online Role-Playing Game)
大規模多人数参加型のロールプレイングゲーム
FPS(First Person Shooting)
一人称視点のシューティングゲーム
TPS(Third Person Shooting)
三人称視点のシューティングゲーム

 こうした背景の中、現在問題視されているのがゲーム依存症(ゲーム障害)です。ゲーム依存症とは、ゲームに熱中するあまり生活に支障が出る状態のこと。世界保健機関(WHO)による病気の世界的な統一基準である国際疾病分類(ICD)の最新版「ICD-11」に「ゲーム障害(Gaming disorder)」が追加されることになり、正式に「疾病」として指定されることになります(2019年5月の世界保健総会で採択されたあとに正式指定)。新しい病気ではありますが、国立病院機構久里浜医療センターでは、7年前の2011年からネット依存外来(ネット依存治療部門:TIAR)を設置。これまで多くの患者を診察してきた同センター院長の樋口進先生にその実態について話を伺いました。

ネット依存外来の9割がゲーム依存症での受診、平均年齢は19歳

久里浜医療センター 樋口 進 院長

久里浜医療センター 樋口 進 院長

 スマートフォンは、今やインターネットやゲーム、SNSにショッピングと、若者には欠かせない生活必需品。中でもゲームは特に人気のコンテンツです。同センターのネット依存外来では、年間延べ1,500人ほどの患者さんを診察しており、そのうちの実に9割が、ゲーム依存症での受診だといいます。

「患者さんの平均年齢は19歳と若く、その8~9割を男性が占めており、中高生の男の子たちがもっとも多くなっています。依存症の原因となったゲームは、オンラインゲームがほとんどで、オフラインのゲームが依存対象となっている患者さんはほぼいません。それは、オンラインゲームが、複数でそれぞれの役割を持ってゲームをしていることや、刺激的な内容が多いことなどが関係しています」

 今回発表されたICD-11では、ゲーム依存症の具体的な症状を下記のように定義しています。

ゲーム依存症のチェックリスト(定義)

  • ゲームのコントロールができない
  • 他の生活上の関心事や日常の活動よりゲームを選ぶほど、ゲームを優先する
  • 問題が起きているが、ゲームを続ける、またはより多くゲームをする
  • ゲーム行動のためにひどく悩んでいる、または個人、家族、社会における学業上、または職業上の機能が十分に果たせない(重症度)

 この4項目が12か月以上続く場合にゲーム障害と診断されますが、これらの症状があり、それが重症であると判断した場合には、12か月より短くても依存症と診断します。

「オンラインゲームの多くが盛り上がるのが深夜です。夜中の2時3時までゲームを続け、さらにそこからも興奮状態が続いて眠れなくなり、あっという間に昼夜逆転の生活になります。朝起きられないために遅刻・欠席が続き、さらに勉強をする時間がなくなって成績も落ちた結果、留年や退学をせざるをえない状況に陥る場合も少なくありません」

「本能」の大脳辺縁系が優勢に、欲求や行動のコントロールが困難に

 お隣の韓国は、オンラインゲーム大国とも呼ばれており、数日間長時間連続してゲームに興じた結果、死亡事故に至るケースが報告されています。こうしたゲームによる死亡事故は中国などでも発生しており、深刻な社会問題となっています。

久里浜医療センター 樋口 進 院長

「ゲーム依存が深刻な問題を引き起こしてしまうのには、脳の反応が関係しています。この点に関する論文によると、ゲーム依存症の患者さんは、アルコールやギャンブルなど、他の依存症の典型的な症状や、脳内に生じる反応のパターンと経過が酷似していることがわかってきました。一般的に、私たち人間の行動は、「理性」をつかさどる前頭前野と、欲望や快感など「本能」をつかさどる大脳辺縁系によってコントロールされています。依存が進むとこの前頭前野の機能が下がるために、ますます欲求や行動をコントロールできなくなり、依存行動がますますエスカレートするようになります。

 また、依存行動を繰り返していると、脳は依存の原因になっている快感や多幸感に対して次第に鈍感になってゆきます。この状態は報酬欠乏と呼ばれています。この状態になると、これまでと同じ刺激では満足できない状態が起こり、より強い刺激を欲するようになります。また、ゲーム依存症が深刻なのは、未成年に多いということも関係しています。前頭前野は、成人になるに従って発達していく部位です。しかし、未成年はもともと前頭前野が十分に発達していないので、衝動のコントロールが大人よりも上手くできないのです。そのため、睡眠も食事も取らず、さらにトイレも行かず長時間ゲームをし続けてしまうようになってしまうのです」

遅刻、欠席や欠勤、家庭内での暴力などの問題、精神障害の合併も

 樋口先生らが調査したデータによると、ゲーム依存症の患者さんは、学校や職場への遅刻・欠席・欠勤を繰り返すほかにも、ひきこもりや食事をとらないことによる体力低下や栄養失調、物を壊す、家族に対する暴力などの問題も多く起こることがわかっています。さらに、うつ病やパニック障害、強迫性障害などの精神障害を合併することも少なくなくありません。

「ゲーム依存症になる患者さんの多くが、もともと対人関係に問題があったり、コミュニケーションが苦手で、自己評価が低いことが多く、現実の世界に生きづらさを感じています。ゲームは簡単に達成感や満足感を得ることができ、オンラインの仲間からの称賛も得られます。すると次第に『自分のいるべき場所はここしかない』という思いが強くなってくるのです。将来に対する投資の時期につまずいてしまうと、その後何十年にもわたり影響を受けることになります」

“スマホ断ち”は困難、自分の意思で行動を変えるための援助を

久里浜医療センター 樋口 進 院長

 では、子どもや周囲の人がゲーム依存症かもと思った場合、どのような方法でゲームから断ち切るようにすればいいのでしょうか。

「依存対象の刺激から遠ざけることが依存症の治療ではとても重要なことです。これは『cue(キュー)刺激』と呼ばれる『依存対象を連想させる刺激』に対する過剰な脳の反応が、依存者に起こるためです。例えばアルコール依存の人にお酒のボトルを見せると飲みたくなってしまうのはcue刺激によってドーパミンが分泌されるからです。しかし、スマホは、今や生活に欠かせないものになっているので、取り上げる、持たないという選択肢は難しいものがあります。また、親御さんなど周囲がネット使用をコントロールしようとしても難しいことが多く、本人が自分の意思で行動を変えていくよう援助していくことが大切になります」

 久里浜医療センターでの治療はまず任意入院を原則とします。2か月の入院の間、ネットの使用はできません。その入院期間で、疾病に関する教育や通常の勉強、認知行動療法やカウンセリング、NIP参加などを行います。

「NIPはNew Identity Programの略で、現実の世界の中で、本来の自分や持つ力を見つけ育てていくプログラムです。運動を行ったり、患者同士での話し合い、ネット依存を克服した人の話を聞くなどしていくものです。家庭でも『ノースマホ』の時間を作ることも大事ですし、塾やアルバイトなどでネットのできる時間を減らしたり、興味の対象を部活やガール・ボーイフレンドなどに移すことも有効です。子ども自身はなかなか自分の問題を直視することができません。ゲーム依存症を治療できる施設はまだ少ないのが現状ですが、依存症克服のためには周囲のサポートが欠かせません。無気力だった患者さんが、治療をしていくにつれ本来の力を取り戻し、いきいきとしてくるのを見るのはとても嬉しいものです。ネット依存は早期に発見できれば短期間で改善する可能性があります。怪しいと思ったらまずは親御さんだけで専門機関を受診するなどして、解決の手がかりを探ってみてください」

NIP(New Identity Program=新アイデンティティプログラム)とは

久里浜医療センターのネット依存外来で2012年から行われている治療プログラム。日中、ネットなしで過ごす楽しみを見つけることを目的としてしている。「『オンライン上』ではない『リアル』の世界で、『自分の本来あるべき姿』や『新たな可能性』を見つけるための1ステップとして欲しい」との願いをこめて名づけられたという。
主な活動内容は以下のとおり。

  1. バトミントンや卓球などの運動、美術、(インターネットや機械を使用せず、みんなで行う)ゲーム
  2. 医師や看護師、栄養士、作業療法士などによる睡眠、運動、栄養、依存、健康問題などについてのレクチャー
  3. ネット依存をさまざまな角度から話し合う小ミーティング
  4. 希望者には、臨床心理士による対人関係に関する訓練

参考:NIP(新アイデンティティプログラム)紹介

久里浜医療センター 樋口 進 院長

樋口 進(ひぐち すすむ)先生

国立病院機構久里浜医療センター院長
世界保健機関アルコール関連問題研究・研修協力センター長

主な所属学会、委員会、役職など

国際アルコール医学生物学会(ISBRA)前理事長 、2018年大会長
国際嗜癖医学会(ISAM)アジア・太平洋地区代表、2014年大会長
国際行動嗜癖研究学会(ISSBA)理事、2019年大会長
アジア・太平洋アルコール嗜癖学会(APSAAR)理事、事務局長
日本アルコール関連問題学会(理事長)
日本アルコール・アディクション医学会(理事)
日本精神神経学会(代議員)
日本アルコール医学生物学研究会(運営委員)
アルコール関連問題予防研究会(代表)など

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