[頭痛外来の先生を訪問しました「1人で悩まないで、慢性頭痛」] 2009/05/07[木]

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【プロフィール】
専門:脳神経外科、心療内科
1978年 北海道大学医学部卒後、同大脳神経外科医局入局
1979年 旭川赤十字病院勤務
1983年 秋田県立脳血管研究センター勤務
1985年 市立札幌病院救急医療部勤務
1988年 市立札幌病院脳神経外科勤務
1989年 札幌明和病院にて心身医学研修
1997年 北海道脳神経外科記念病院勤務
1999年 同病院副院長
2002年 脳神経外科・心療内科北見クリニックを開設

 

QLife:頭痛外来を設置した理由、きっかけを教えてくださいますか。

北見先生(以下先生):私の医師としての始まりは脳神経外科でした。ですので脳出血などに対する外科的治療のほか、顔面痛、頸椎捻挫からくる頭痛の治療にも接していたんです。特に後者の場合、患者さんが多いわりに、MRIや脳波を調べても原因が分からないことが珍しくありませんでした。分からないんですが、先輩方からの経験則では筋弛緩剤や抗不安薬の投与でよくなるんです。つまり精神安定剤ですね。当時の私は、脳や神経に原因がないと思われるのになぜ頭痛が治らないのか、そしてその投薬でなぜ改善されるのか不思議でしょうがなかったんです。そのことをずっと心に抱きながら診療を続けていたとき、「痛みの心理学」という一冊の本と出会い、頭痛に対しては心理面や、つらい痛みに対処するペインクリニックの手法など、多方面からのアプローチが必要なんだと気づいたのです。それが大もとのきっかけですね。

QLife:診療現場でのかつての疑問が、現在の専門アプローチに繋がっているということなんですね。こちらでは、どのような流れでまず診察を…

先生:初診時にかなり時間を割きます。30〜40分かな。問診をじっくりして、場合によっては検査があり、診断、症状の説明です。問診では頭痛の様態やこれまでの病歴、家族歴などを訊きます。これらはひと通り確認して当然の事項ですが、当院ではもうひとつ、診察の前に簡単な心理検査をお願いしています。頭痛の原因のひとつが、心理的な影響ということも考えられますので。

QLife:そのあたりは、来院される患者さんの傾向に合わせたものなんでしょうか?

先生:当院では、割合として比較的重篤な症状の方が多くいらっしゃいます。女性の方に多いのですが、ずっと頭痛がひどくて市販の鎮痛薬を服用しているがよくならない方とか、心療内科に通われていてそちらの方で薬の処方を受けている方など、「こじれている」方が多いのです。そのため、判断材料は多い方がいいということでそうさせていただいております。
その中でもよく見られるのが、痛みがおさまらないので市販の鎮痛薬を常用しているうちに、頭痛がひどくなってさらに状態が悪くなっているというケースですね。

QLife:それはかなりつらい状況ですね…どういったことなんでしょうか。

先生:これは、いわゆる「薬物乱用頭痛」と言われる状態です。1カ月のうち10日以上(種類によっては15日以上)薬を内服し続けていると、神経が過敏になり痛みが強く感じられてしまうのです。こうなると、かなりつらいですね。他人からすれば薬をやめれば良いじゃないかと思われがちですが、もともと痛みがつらくて、おさまらないから薬を飲んでいるわけなので、別のアプローチで痛みを軽減しながらでないと解決策になりません。

QLife:別のアプローチというのは、例えばどういったことでしょう?

先生:通常の治療を行いながら、とにかく痛みがおさまらない原因を丹念に探ります。頭痛の慢性化の原因は、精神的なストレスによることが多いですね。自分や身辺からのストレスはもちろん、頭痛、特に片頭痛は本当にひどい痛みですから、それ自体もストレスになり得ます。だから経過観察する時にアンケートを取って、その人なりの原因を探っていく必要があるんです。例えば診察のインターバルが2週間だとして、その間の大まかな生活記録を記入してもらって、それを元に精神的なストレスの原因になっていそうな出来事を訊いていくんですね。心療内科的なアプローチです。

QLife:なるほど…根気のいる作業ですね。患者さんの中には戸惑う方もいらっしゃるかもしれませんね。

先生:いらっしゃいますよ、「頭痛の治療なのになんでそんなこと訊くんだ」って。でもね、ストレスって、自分でそうだと意識できてないことも多々あるんですよ。例えば身内の不幸とか仕事上のプレッシャーとか、他人から見るとそれはかなり負担になっているだろうなということでも、本人は「全然問題ない」と思っていることが。そう思って抑え込んでいることこそがストレスなんですよね。ただ、そのあたりはすごくデリケートなので、慎重にお訊きすることを心がけています。
それからね、痛みがおさまらない原因のひとつとして最近分かってきたのが、睡眠との関係なのです。規則的に、しっかりした睡眠を取っていると神経活動が穏やかになるので、必要以上に高ぶって痛みに敏感になることもないんです。一見、無関係に思える頭痛と睡眠ですが、非常に多くの頭痛患者さんが睡眠障害を持っています。そこで経過観察では睡眠のこともお訊きし、改善策を指導しています。

QLife:本当に様々な視点で診ていらっしゃるんですね。

先生:慢性頭痛に対してはそういった心身両面でのアプローチをしないと改善しないことが多いんです。だから何でも市販の鎮痛薬で、という自己判断はしないほうがいいと思いますよ。場合によっては、今話したケースのように袋小路に陥るようなことにもなりかねませんから。

QLife:確かに、今日のお話はその大切さがよく分かりました。ありがとうございます!最後にこれを読まれている方に、メッセージがあれば。

先生:頭痛、特に慢性頭痛は日本人の4割がかかっていると言われています。そして、実際にかかるととても耐えることが難しい痛みです。しかも最近までは、どこの診療科に行けばいいのか分かりづらい状況でしたので、患者さんは病院に行っても、不安になってしまう状態だったろうと思います。
今はこうして頭痛外来という専門外来が各地にできて、皆さんの不安を解消し、本来の安心を取り戻せるように診察しています。それにより、ご自身の頭痛の症状・要因を理解し、受け入れる事で、頭痛と付き合っていこうと思える自分に会えると思います。問題を抱えているならばまず診察に来ていただいて、話してみてほしいと思いますね。

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