[免疫栄養] 2017/02/22[水]

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手術室

 がんをはじめ、様々な疾患の治療に対しておこなわれる外科手術。特に開腹を伴う手術は体への負担が大きく、切開した場所を含む炎症や術後の感染症をどう予防するかが早期回復・早期退院のカギを握ります。近年、手術後の早期回復をサポートする方法の1つとして、注目を集めているのが、手術前にアルギニンやEPAなどを含む栄養補助飲料を摂取することで免疫力を高める「免疫栄養」という考え方です。アルギニンやEPAは、普段の食事でも摂取することはできますが、十分に摂るのはなかなか難しいもの。1日あたり、DHAとEPAを合わせて1g以上の摂取を厚生労働省は推奨していますが、1日1グラムのEPAを食事のみで摂ろうとすると、アジを毎日10尾以上食べなければなりません。様々な病院でも使用される免疫栄養のための「アルギニン・EPA飲料」には、アルギニンやEPAなどが多く含まれており、これらの栄養素を効率的に摂取できます。国内外の研究では、手術前にこの「アルギニン・EPA飲料」を一定期間摂取することによって術後の合併症が少なくなり、入院期間が短縮したことが報告されています。

免疫力を高める栄養素

アルギニン 鶏肉や牛乳、納豆などに多く含まれるアミノ酸
免疫機能を高めたり、傷の治りを早める働き
EPA アジやイワシなどの青魚に多く含まれる脂肪酸
手術後の炎症反応を抑える働き

 病院の医師や栄養士が栄養治療の際に参照する「静脈経腸栄養ガイドライン(編集・日本静脈経腸栄養学会)」でも、食道がん手術、膵頭十二指腸切除などの高度侵襲手術や、中等度侵襲手術の術前にアルギニンやEPAなどを含む栄養補助飲料の使用が推奨されています。

 そこでQLifeでは、開腹(頭、胸を含む)を伴う侵襲の高い手術を受けた経験(または予定)がある500人を対象に免疫栄養に関する調査を実施。その内、消化器がん(胃がん、食道がん、大腸がん、咽頭がん、肝胆膵がん含む)の手術を受けた患者さん100人の免疫栄養についての調査結果をご紹介します。

免疫栄養「知っていた」わずか18%

 手術後の早期回復を目指し、アルギニン・EPA飲料などを術前に摂取する「免疫栄養」について、「知っていた」と回答した患者さんは18%に止まりました。さらに、実際に「免疫栄養」を実施した患者さんはごくわずか。ガイドラインに推奨する表記があるのにもかかわらず、周知、実践されていないことが分かります。

「免疫栄養」を知っていましたか?「免疫栄養」を知っていましたか?グラフ

約6割の患者さん「手術を受ける前に知っていたら、免疫栄養に取り組みたかった」

 免疫栄養をおこなう手段の1つに、アルギニンやEPAなどの栄養素をバランスよく摂取できる「アルギニン・EPA飲料」がありますが、こうした「アルギニン・EPA飲料」について患者さんに聞いたところ、約6割の患者さんが「手術を受ける前に知っていたら飲みたかった」と回答。免疫栄養に対する関心が高い様子が見られました。

手術を受ける前に知っていたら
「アルギニン・EPA飲料」を飲みたかったですか?手術を受ける前に知っていたら「アルギニン・EPA飲料」を飲みたかったですか?グラフ

「“免疫栄養”は“攻めと守りの栄養管理”をおこなう良い方法の1つ」(東口先生)

 免疫栄養について、藤田保健衛生大学医学部 外科・緩和医療学講座 教授の東口髙志先生は、「体に負担のかかる手術を乗り越えるためには、栄養によって免疫力を高め、回復を促す“攻め”と“守り”両面からのアプローチが重要です。アルギニンはリンパ球などの免疫細胞を増やす働きがあり、戦う力を高めます。また、EPAは手術などのストレスによって生じる炎症を抑えることで、体を守ってくれます」と解説。「ただし、アルギニンやEPAだけでなく、たんぱく質やビタミン、ミネラルも一緒に摂取することが重要です。手術で侵襲を受けると、回復のためには大量のたんぱく質が必要です。また、体の機能を維持するために必須となるビタミンやミネラルは、体内では合成できないため、外部から補給する必要があります」(東口先生)。

 栄養補助飲料にはさまざまな種類がありますが、特長を理解し、自分の状態に合わせて選択することが大切だと東口先生は言います。「手術の前には、アルギニンやEPAを含む栄養補助飲料を飲み、体の準備を整えて手術に臨みたいところです。関心がある方は、医師や薬剤師、管理栄養士に相談し、活用を検討してみてはいかがでしょうか」(東口先生)。

藤田保健衛生大学医学部 外科・緩和医療学講座 教授 東口 髙志 先生

監修:藤田保健衛生大学医学部 外科・緩和医療学講座 教授
東口 髙志 先生

一般社団法人日本静脈経腸栄養学会理事長。緩和医療学、代謝・栄養学、外科学を専門とし、2003年には日本初となる緩和医療学講座の教授に就任。医療機関での全科型栄養サポートチーム(NST)の立ち上げ、普及に寄与、その理論や方法は海外からも大きな注目を集める。著書に『「がん」では死なない「がん患者」栄養障害が寿命を縮める』(光文社新書)などがある。

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