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[注目疾患!] 2019/10/16[水]

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がん治癒して不幸に…医療発展は自己満足か?

押川勝太郎先生

生涯2人に1人が罹患し、3人に1人の死因となる日本の国民病「がん」。治療の進歩により5年生存率は平均62%に。「がんになったら終わり」という時代から「がんと共に生きる」時代が到来しました。ここでは、「病にまけない、人生を輝かせる」をコンセプトとし、患者さんの希望や願いを叶えるプロジェクト「CaNoW(カナウ)」発足記者発表会にゲストとして登壇、患者会の理事長やYouTuberとしても活躍する腫瘍内科医、押川勝太郎先生に、これからのがん治療に求められるものを語っていただきました。

「治療の進歩=患者の幸せ」ではない

ゲノム医療と分子標的薬の登場で、がん患者さんの生存期間は飛躍的に伸びました。これは、がんが治るか治らないかだけでなく、治療中や治療後生活を守ることも同じく重要になったということです。

多くの患者さんと接していると、治療が上手くいっても不幸になってしまう人、反対に治療が上手くいかなくても幸せを感じられる人がいるということに気づきます。

たとえば、StageⅣの大腸がんが見つかった60代後半の男性。最初の抗がん剤治療でアレルギーを発症し治療を中断。絶望的と考えられる状況でしたが、セカンドラインの抗がん剤治療が予想外に著効したんです。にもかかわらず、1年後に自殺をしてしまった。彼にとっては、がん治療が人生の目標になってしまっており、いざ治っても生きがいがない。次第に精神的に参ってしまい自殺念慮が起こったのではと考えています。

また「長生きリスク」の問題もあります。がんに直面し、家族が懸命に看病をする。治療の進歩で闘病生活も長期戦になりました。看病をする側はだんだんと疲弊していきますし、患者さんも「迷惑をかけたくない」と辛くなってしまう。

いずれの場合も、精神的なケアが重要であると考えます。

治療が研究者の自己満足になってはいけない

しかし、なかには治療が最優先で、患者さんの価値観を無視してしまう医師もいます。自分の仕事は病気を治すことであり、それ以外は自分の管轄ではないと、興味を持たないのです。患者さんも、自身の困っていることを先生に相談できません。そうなると、治療の発展と患者さんの幸福度がだんだんと乖離してしまいます。

最近では、ガイドラインの作成委員会に患者会の代表を入れることが推奨されるようになりました。患者さんの目線が盛り込まれることで、研究者の自己満足ではない、治療が実現されていくことを期待します。

同時にガイドラインはあくまでもガイドラインであるということ。料理本のように、レシピ通りやればうまくいくというものではありません。患者さんの想いや希望を引き出し、前向きに治療に取り組んでいただけるようにサポートすることを大切にしています。

ーー国立がん研究センターや東京大学などの共同チームの論文では「問題に前向きに対処する人」はそうでない人に比べ、がんでの死亡リスクが15%低減すると紹介されています。

その通りですね。ぼくは患者さんをけしかけるのが好きなんです。印象に残っているのは、60代後半の胃がんの患者さん。抗がん剤治療のために通院していたのですが、電車を乗り継いで片道3時間かかるんです。最初は「通院がしんどい」と漏らしていたのですが「せっかく3時間かけてくるのだから、旅行気分で楽しんでみてはいかがですか?」と提案してみたんです。

素直な方で、それから3時間の道程を楽しみながら、家族の手を借りずにやってくるわけです。行動することで、自分は抗がん剤治療中でもここまでできる、という判断が可能になります。そのうちに沖縄旅行に出かけたことも報告してくれました。やはり希望や目標をもって、人生を楽しみながら治療に取り組むことは非常に重要です。

医学部では教えてくれない、ノンバーバルコミュニケーション

押川勝太郎先生

ーー患者さんの精神面をサポートする上で、どんなことに気を付けていますか?

基本はノンバーバルコミュニケーションです。言葉によらない非言語コミュニケーションのことですが、表情や身振り手振り、口調などに気を付けています。

患者さんに治療の説明をする上でも、まったく同じことを話しているのに患者さんの受け取り方は真反対ということがあります。冷たい、抑揚が無い、目を見ない、朴訥に話している…これでは患者さんは医師を信頼してくれませんよね。しっかり向き合って、優しく支援する姿勢や熱意を全面に押し出してお話しすると、患者さんの受け取り方はガラッと変わります。しかしこれは、医学部では一切教えてくれないのです。

ぼくは学生時代の6年間、飲み会の幹事を積極的に引き受けてきました。この時の経験が生きています。参加者の表情や態度を見ながら、あの子は楽しんでないな、どうすればみんな楽しめるのかな、というのをずっと考えて分析してきたんです。だからいまも、患者さんの表情や仕草で「不満を持っているな」というのはすぐに分かります。目を合わせてくれないだとか、上の空で返事だけしているな、とか。まさか幹事時代に培ったノンバーバルコミュニケーションが25年を経て、がん診療で役立つとは思いもしませんでした。

昔は医学的な知識や技術さえあればよかったのですが、いまはそうではありません。がん治療というと、特別な目で見られることがあるけれど、がん患者さんの悩みの8割は人間関係や精神的なものだと、ぼくは思っています。「つらい気持ちをどうにかしてほしい」とか「家族に迷惑をかけたくない」とか。そういう気持ちを理解して、前向きになっていただけるような取り組みが重要だと考えています。

がん治療には、医学的な側面と同じくらいに精神的なサポートが重要であることを教えてくれた押川先生。次回は、患者さんの精神面をサポートし、前向きに治療していただくための具体的な取り組みについて詳しくお話をうかがいます。

押川勝太郎先生

押川勝太郎先生宮崎善仁会病院 消化器内科・腫瘍内科1965年生まれ 宮崎県川南町出身 宮崎大学医学部卒
国立がんセンター東病院研修医を経て、2002年に宮崎大学第一内科で抗がん治療部門をスタート。
NPO法人 宮崎がん共同勉強会理事長 YouTube「がん治療の虚実」を運営するユーチューバー。
※Cancer Epidemiol. 2016 Feb;40:126-33. doi: 10.1016/j.canep.2015.12.003. Epub 2015 Dec 22.(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26720912

人生100年時代、2025年には全人口の約18%にあたる2179万人が後期高齢者に。さらに医療の発達により、さまざまな疾患を持ちながらも、その病と共生する人々が年々増加しています。

「CaNoW」は、病気や加齢などを理由に叶えられなかった「やりたいこと」の実現をサポート。これまでにも先行モニター企画として、「大好きなサッカーチームをスタジアムで応援したい」「病に倒れてから一度も行けていない職場へ、もう一度行きたい」「温泉で紅葉狩りがしたい」などの願いを叶えてきました。企業CSRとしての協賛を資金源としているため、利用ユーザー(患者さん・ご家族)の自己負担は不要です。

今回、10月11日(金)に公開する映画「最高の人生の見つけ方」(主演:吉永小百合/天海祐希)とのタイアップを記念し、10名の患者さん・ご家族の願いを叶えます!応募期間は9月30日(月)~10月31日(木)まで。詳細は『CaNoWでかなえる“最高の人生の見つけ方”』をご覧ください。

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