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新規会員登録(無料) ログイン医療ドラマ『トップナイフ』を脳神経外科医が解説!ドラマとリアルな医療現場のギャップとは?
[医療×エンタメ] 2020/03/03[火]
千葉徳洲会病院脳神経外科部長 内田賢一先生
病院の脳神経外科を舞台に、手術の天才『トップナイフ』を目指して奮闘する、医師・深山瑤子らの活躍を描いた医療ドラマ『トップナイフ-天才脳外科医の条件-』。ドラマでは、「脳腫瘍」「フレゴリ妄想」「外国語様アクセント症候群」など、さまざま病気や症状が描かれています。ドラマを見て、「前から知っていた」という病気もあれば、「初めて知った」という病気もあったのではないでしょうか?
今回は、千葉徳洲会病院脳神経外科部長で、日本脳神経外科学会などの専門医でもある脳外科医・内田賢一先生に、ドラマに登場する病気・症状について解説していただき、また、ドラマを見て感じた素朴な疑問についてお答えいただきました。ドラマで描かれる医療現場とリアルな医療現場では、どのようなギャップがあるのでしょうか?脳神経外科医として、日々、患者さんたちと向き合う内田先生に、詳しくお話を伺いました!
性格が別人のように変わるって本当?脳腫瘍とは
――脳腫瘍とは、どのような病気でしょうか?
脳腫瘍は、その名の通り脳の中にできる腫瘍のことです。皆さんは、「脳のがん」とイメージされるでしょうか?脳腫瘍には、悪性のものと良性のものがあり、発生する頻度としては、悪性腫瘍よりも良性腫瘍のほうが多いです。一方、高齢化に伴い悪性腫瘍の患者さんの数は増えていますね。症状は、腫瘍ができる場所によってさまざまなので、患者さんごとに異なります。
――脳のどの場所に腫瘍ができると、性格が変化するのでしょうか?
一般的には、脳の「前頭葉」という場所に腫瘍ができると、性格の変化が顕著に現れます。前頭葉は、ヒトの感情や思考といった人格を形成する部分に関わっており、言語機能をコントロールする場所でもあります。また、前頭葉に比べると少ないですが、同じく言語機能などに関わる「側頭葉」という場所に腫瘍ができても、性格が変化することがあります。
例えば、脳腫瘍によって、前頭葉や側頭葉の中にある言語機能に関わる部分が障害されると、うまく言葉を発することができない状態になります。もしくは、患者さん本人は言葉を発しているつもりなのですが、何を言っているのか相手に伝わりにくい状態になります。このような変化によって、患者さんの周りの人は「脳腫瘍によって性格が変わった」と感じられるのだと思います。
――性格はどのように変化することが多いでしょうか?
性格がどのように変化するかは、患者さんごとに異なります。一つのケースとして、「通常は抑制されているものが解除される」というものがあります。例えば、普段は穏やかな人が急に怒りっぽい人になる、ということですね。前頭葉に腫瘍ができると、社会で生活するために普段は無意識に抑制されているものが解除されてしまうことがあるんです。脳腫瘍ではないですが、私が実際に診た患者さんですと、左側の前頭葉を出血したケースがありました。この患者さんは学校の先生として働いていたような真面目な方なんですが、前頭葉からの出血をきっかけに抑制が解除されてしまい、看護師さんのお尻を触ってしまう…なんていうことがありましたね。昔からこの患者さんを知る人であれば、そのような様子を見て「性格が変わった」と感じられるかもしれません。
脳腫瘍ですと、左側の前頭葉と側頭葉に「グリオブラストーマ(膠芽腫(こうがしゅ))」という脳腫瘍が生じた患者さんで、性格が変化したケースがありました。ご家族が、「(患者さんが)いつもと何か違う」とおっしゃるので診察してみると、確かに、どこかおかしい様子でした。ずっと何かを喋っているようなのですが、上手く聞き取ることができなかったんです。そこで、詳しく調べてみると、患者さんは言語機能に関わる部分が脳腫瘍によって障害されており、言葉を理解したり話したりすることがうまく機能していないことがわかりました。60代の方でしたが、もともと年齢の割に元気だったため、ご家族は余計に「性格が変わった」と感じられたようです。
元恋人が病院関係者に変装?フレゴリ妄想とは
――フレゴリ妄想は、どのような病気でしょうか?
「知っている人が、他の人に変装している」と思い込む、妄想の一種です。統合失調症の患者さんで症状が現れたり、脳血管障害や頭部外傷などから派生して症状が現れたりすることがあります。ドラマでは、脳外科の医師がフレゴリ妄想の患者さんを診ていましたが、実際には、精神科や心療内科の医師が診ることが多いですね。リアルな医療現場では、フレゴリ妄想の症状が出ている患者さんが、最初から脳外科を受診することはあまり多くないと思います。
――ドラマで描かれていたように、本当に、患者さんには「変装している」ように見えているのでしょうか?
はい、変装しているように見えているようです。ドラマで描かれていたように、「患者さんの元恋人が病院関係者に変装して、なりすましている」ように見えるということは、フレゴリ妄想の症状が現れている患者さんではあり得ることです。ご本人には、実際にそのように見えているのだと思います。
また、「知っている人物」が変装しているように見えるというのは、フレゴリ妄想の特徴の一つですね。宇宙人とか、知らない人物が他の人に変装して見えることは無いということです。ドラマでは「元恋人に見える」と描かれていましたが、誰が変装しているように見えるかは、患者さんによってさまざまです。
突然、関西弁を話し出す?外国語様アクセント症候群とは
――外国語様アクセント症候群は、どのような病気でしょうか?
外国語様アクセント症候群は、脳の障害によって今までとは違う話し方になってしまう症候群のことです。同じ母国語を使う人が「外国語みたいだ」と感じるような、違和感のある話し方が特徴です。例えば、普段はイギリス英語を話す人が、急にニューヨーク訛りの英語を話すようになる、ということですね。言葉を発する時に使う筋肉の動きを司る小脳という場所が障害されると症状が現れます。
また、外国語様アクセント症候群の症状によっては、患者さんとのコミュニケーションが難しくなる場合もあり得ます。患者さん自身は言葉を認知できていますし、喋ろうとする意欲もありますが、実際に話そうとすると上手く話せないんですね。このように、患者さんの発する言葉は聞き取りづらくなりますから、症状によっては、普段に比べるとコミュニケーションが難しくなるかもしれません。リアルな医療現場では、外国語様アクセント症候群とちゃんと診断を受けている患者さんの数がとても少ないため、脳外科の医師が診ることはあまり無いと思います。
――ドラマで描かれていたように、外国語様アクセント症候群によって流ちょうな「関西弁」を話すようになる患者さんは実際にいるのでしょうか?
急に流ちょうな関西弁を話すようになるというケースは、現実では考えにくいですね。実際には、普段標準語を話す人がいつもと違うような話し方になった場合に、それを聞いた人が「関西弁のように聞こえる」と感じる、というケースを指していると思います。
「自分は死んでいる」と本気で思いこむ?コタール症候群とは
――コタール症候群は、どのような病気でしょうか?
コタール症候群は、「あるものがないと感じる」妄想の一種です。「自分は死んでいる」「自分には内臓がない」といった妄想が生じます。このような妄想を、否定妄想といいます。コタール症候群は、統合失調症やうつ病などの患者さんで見られますので、リアルな医療現場では、脳外科ではなく精神科などの医師が診ることが多いですね。
――ドラマで描かれていたように、「自分は死んでいる」と思いこむ患者さんは本当にいるのでしょうか?
はい、いますよ。コタール症候群の患者さんは、本当に「自分は死んでいる」と思いこんでいます。そのため、ドラマで描かれていたように、自分が死んでいることを確認するために飛び降り自殺を図るということは、十分にあり得ます。コタール症候群の患者さんは、あくまでも「自分が死んでいることを確認したい」と思って自殺するので、うつ病の患者さんなどで「死にたい」と思って自殺を図るケースとは、少し異なりますね。
新しい経験を記憶できない?コルサコフ症候群とは
――コルサコフ症候群は、どのような病気でしょうか?
コルサコフ症候群は、「新しく経験したことを記憶することができなくなる」などの症状が現れる認知障害の一種です。脳の乳頭体という場所に変化が生じ、意識障害や、眼球が動かなくなる眼球運動障害などが現れる「ウェルニッケ脳症」の後遺症で、脳の正常な活動に必要な「ビタミンB1(チアミン)」の不足によって生じます。
ドラマでは、患者さんが友達に付き添われて脳外科を受診する姿が描かれていましたが、リアルな医療現場では、コルサコフ症候群の患者さんが最初に脳外科を受診することはあまり多くありません。実際には、食事を取らずにアルコールだけを多く摂取した結果、意識障害を起こすなどして患者さんが救急に運ばれることが多いですね。コルサコフ症候群かどうかを含めて診断を確定するために、脳外科の医師が診ることもあります。
――コルサコフ症候群を発症しやすいのはどのような人ですか?
特に多いのは、アルコール依存症などで慢性的にアルコールを摂取している人です。アルコールを摂取すると、ビタミンB1が消費されてしまうんですね。妊婦さんが、つわりで思うように食事を取れない場合も発症する可能性があるので、注意が必要です。また、消化器疾患などの患者さんで食事を取れない人、治療などを理由に絶食されている患者さん、吸収障害のある患者さんも発症する可能性があります。
――最後に、医療をテーマにしたドラマが最近増えていることについて、先生のお考えを教えていただけますか?
正直に言うと…私は普段あまりドラマを見ないのですが、医療ドラマをきっかけに、子どもや若い人たちが医療の世界に興味を持ったり、憧れを持ったりすることは非常にいいことだと思いますね。医療ドラマが増えるということは、そういった機会が増える可能性があるということですから、そういう意味では良いことだと思います。
ただ、ドラマでは、医療現場が華々しく描かれることもあると思うんですけど、実際の医療現場はすごく泥臭い世界です。ドラマを見ている皆さんが想像する世界とは、全然違うのではないでしょうか。そういった違いについても、知ってもらえたらと思いますね。
内田先生は、『トップナイフ』で登場したさまざまな疾患について、分かりやすく教えてくださいました。また、普段は、お忙しくてなかなかドラマを見られないとのことですが、今回の取材のために『トップナイフ』を見てくださったという内田先生。ドラマでの描かれ方と比較しながら、詳しく解説してくださる、とても優しい先生でした。
最後に、QLife編集部が「『トップナイフ』と呼ばれる脳外科医は、実際にいるのでしょうか?」と聞いてみたところ、「言葉の定義は曖昧ですが、新しい脳外科の手術の世界を切り開いた先生方は、もちろんいらっしゃいますよ」と、内田先生。ただ、『トップナイフ』という呼び方については、「実は、脳外科医ってあまりナイフを使わないんですよね…」と、こっそり教えてくださいました。脳外科医である内田先生が手術でよく使う道具は、ハサミと吸引管、マイクロカテーテルなのだとか。「もし、非常に能力の高い脳外科医を『トップナイフ』と表現するのであれば、実際には『トップシザーズ』とか『トップマイクロカテーテル』はどうかな?」と、新しい呼び方も考えてくださった内田先生でした。(QLife編集部)
【内田賢一先生プロフィール】
千葉徳洲会病院 脳神経外科部長
日本脳神経外科学会専門医、日本脳神経血管内治療学会専門医、日本神経内視鏡学会技術認定医、脳卒中の外科学会技術認定医、日本脊髄外科学会認定医、日本脳卒中学会専門医、臨床研修指導医
専門分野は、脳神経外科一般(血管内治療、神経内視鏡、脊椎外科含む)。
内田先生の個人ブログはこちら。
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