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[医療×エンタメ] 2020/01/07[火]

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『はたらく細胞』医療監修医・原田知幸先生

人間の体を構成する細胞の数は、約37兆個と試算した論文があるなど、私たちの体の中には莫大な数の細胞が存在し、その細胞ごとにさまざまな働きを担っています。そんな細胞たちを擬人化し、白血球や赤血球といったおなじみの細胞たちの活躍を描いた漫画が『はたらく細胞』です。2015年より『月刊少年シリウス』(講談社)での連載が始まり、スピンオフ作品を含むシリーズ累計発行部数は450万部を突破(2019年12月時点)。2018年にはアニメ化され、アニメ第2期の制作も決定するなど、その人気は確実に広がっています。また、教育機関・医療施設など向けに、『はたらく細胞』に登場する細胞や細菌のキャラクター画像を無償で提供する取り組みも行われ、人間の体の免疫を一般の人が理解する手段としても役立てられています。

今回のテーマは、『はたらく細胞』の第1話に登場する「肺炎球菌」です。肺炎球菌は、もともと子どもの鼻や喉に潜み、咳やくしゃみによって周りの人に感染していく細菌。肺炎球菌に感染すると「肺炎球菌感染症」という病気になり、肺炎の他にも、菌血症や敗血症、髄膜炎といった重篤な症状を引き起こすこともあります。『はたらく細胞』は、体内に侵入した異物から体を守る役割を担う白血球が、肺炎球菌たちと戦いを繰り広げる中で、ある肺炎球菌が逃げてしまう…!という場面から、話がスタート。間一髪のところで生き延びた肺炎球菌は、白血球への復讐を誓い、肺を目指していく…と、話が進んでいきます。

読み進めるにつれ湧いてきた、肺炎球菌に関するさまざまな疑問について、『はたらく細胞』医療監修医の原田知幸先生にお話を伺いました。さらに、『はたらく細胞』の医療監修秘話も語っていただきました!

重症化すると入院の場合も…1週間以上続く熱と咳には注意

――肺炎球菌の感染に注意が必要なのは、どのような人でしょうか?


『はたらく細胞』第1話に登場する肺炎球菌
(C)清水 茜/講談社

肺炎球菌に感染しやすい、高齢者や子どもです。基本的に、それ以外の世代の人は、体の中の細胞が、『はたらく細胞』に出てくる細胞たちのようにしっかりと働いている、つまり、免疫がしっかり機能していますので、肺炎球菌が体内に入った場合でも問題ないことがほとんどです。しかし、免疫機能が落ちている高齢者や、免疫機能が発達途中の子どもでは、感染の可能性があるので注意が必要です。加えて、免疫がうまく機能しない免疫不全の患者さんや、糖尿病、ぜんそくといった病気をお持ちの患者さんも、気を付けなくてはいけません。

その他、「健康で免疫もしっかり機能しているから大丈夫」という方であっても、例えば、「仕事が忙しくて疲れが溜まっている」「ストレスを感じることが多い」という場合は、免疫機能が低下している可能性もありますので、注意したほうが良いでしょう。

――肺炎球菌感染症のひとつに「肺炎」があります。肺炎の症状は、いわゆる一般的な風邪の症状とどのように違うのでしょうか?

まず、肺炎にはさまざまな種類があります。肺炎球菌による肺炎は「市中肺炎」といって、重い病気を患っていない健康な人が日常生活をしていてかかる肺炎です。その原因となる微生物で最も多いのが肺炎球菌と言われています。一方で、市中肺炎にはマイコプラズマという細菌によって引き起こされる肺炎や、インフルエンザをきっかけに引き起こされる肺炎なども含まれます。そういった、いわゆる一般的な肺炎が風邪と大きく違う点は、症状が長く続くということです。例えば、「なかなか熱が下がらない」「なかなか咳が止まらない」といったことですね。患者さんご自身が、肺炎と風邪を見分けることは難しいのですが、目安として、風邪の場合は1週間程度で熱が下がり、咳が治まることが多いので、それ以上続くものについては受診を検討しましょう。

中には、「2~3週間、咳が続いている」という方もいらっしゃいますが、そのような方は、肺炎を疑ったほうが良いですね。受診する際に、症状がどのくらいの期間続いているかを伝えることはもちろんですが、医師に「肺炎かどうか心配です」と伝えることも良いと思います。肺炎の疑いがある場合にはレントゲンによる検査を行いますので、「レントゲンを撮ってもらえますか?」と、患者さんから医師に聞いてみることもひとつの手段ですね。

――肺炎球菌感染症が重症化すると、どのようなことが起こりますか?

例えば、肺炎球菌が血液の中に入ってしまうと「菌血症」になります。また、脳を包み保護している髄膜という部分に肺炎球菌が感染して炎症を起こすと「髄膜炎」になり、頭痛や嘔吐といった症状がみられます。さらに全身で炎症が起こり、より重症化すると「敗血症」になり、生命にも関わります。

私が実際に診た肺炎球菌感染症の重症患者さんでは、肺炎になっただけでなく、血液中に肺炎球菌が入り重症化したケースがありました。また、肺炎が重症化すると、入院が必要になることもありますし、場合によっては人工呼吸器などが必要になることもあります。このように、より重症化したケースでは、非常に積極的な集中治療をしないといけなくなるのです。特に、肺炎球菌による肺炎では、広い範囲で炎症を引き起こしたり、強い呼吸不全が現れたりするケースがあるので、注意が必要ですね。『はたらく細胞』の中では、コミカルに描かれている部分もありますが、肺炎球菌は決して油断してはいけない細菌だと言えます。

――肺炎球菌による肺炎を含めた一般的な肺炎を予防するために、日頃からどのようなことに気をつけたら良いのでしょうか?

基本的なことですが、「手洗い」「うがい」をしっかり行うことが大切です。あと、これは肺炎球菌に限定された話になりますが、65歳以上の方は、公費の補助を受けて肺炎球菌ワクチンを接種することができます。市中肺炎の中でも多い、肺炎球菌による肺炎を予防するのは大切なことですね。65歳以上の方は、5年ごとに、忘れずに予防接種を受けるようにしましょう。もちろん、予防することが大切ですが、万が一感染してしまい症状が現れた場合には、早めに受診することも大切です。

作品を監修するときに大切なことは「患者さんを悲しませないこと」

――続いて、『はたらく細胞』の医療監修医のお仕事について教えていただければと思います。まず、医療監修医のお仕事とは、具体的にどのようなことをされるのでしょうか?


『はたらく細胞』(清水 茜 著)1~5巻発売中
(シリウスKC/講談社 刊)

漫画の医療監修医は、主に、その作品の内容が医学的に正しい内容かどうかの確認などを行う仕事です。漫画を制作するときは、描き始める前に、アイデアや話の内容を形にする「プロット」というものを作ります。このプロットの段階で、作家や編集者から内容について相談を受けて、コメントします。特に、『はたらく細胞』の作家や編集者の方々は、医療についてよく勉強されているので、いつもしっかりした内容のプロットを準備してくれます。その後は、出来上がったものについての最終確認を行います。

内容を確認する際には、「いかにエンターテインメント性を残しつつ、正しい内容を伝えられるか?」ということに気をつけています。漫画に関わらず、映画やドラマなどにも言えることだと思いますが、あまりにも真面目にやりすぎると、エンターテインメントとして成立しなくなってしまうと思うんですね。例えば、「細胞は擬人化できません」って言ってしまったら、そもそも、『はたらく細胞』のような作品を制作できませんから。『はたらく細胞』の場合は、細胞を擬人化することで、それぞれの細胞に人間のような「意思」や「個性」を持たせたことで、難しくなりがちな細胞の成り立ちや働きについて、わかりやすく伝えられるようになったのではないかと考えています。その辺りの“さじ加減”は、難しい部分ですね。

――『はたらく細胞』の医療監修医は、どのようなきっかけで担当されるようになったのでしょうか?

元々、医療の漫画やドラマの監修医を複数務めており、そのつながりで、『はたらく細胞』の編集の方からご相談いただいたことがきっかけです。最初、「細胞を擬人化する漫画を作りたい」という話を聞いたときは、「面白そう」という思いと同時に「大変かもしれない」という思いもありました。人間の免疫機能は、説明が難しい分野だと思いますから。また、私がこれまで関わってきた作品は、医療従事者の活躍を描いたものが多かったので、『はたらく細胞』の医療監修では、これまでとは異なる視点を求められることになるとも思いましたね。

実際に、『はたらく細胞』の医療監修を行うに当たって、私自身、改めて勉強することが多くありました。以前、私はアメリカで3年ほど基礎医学研究を行っていた時期があったんです。その時のことも思い出しながら、細胞の働きについて、改めて学び直しましたね。白血球や血小板など、最初は、おなじみの細胞たちの話が中心だったのですが、話が進むにつれて、徐々に、最新の治療に関わるような内容も盛り込まれるようになりました。例えば、がん細胞の話に関連して、新しいがん治療に関する知識をアップデートする必要がありましたね。『はたらく細胞』では、さまざまな細胞たちのストーリーが描かれますので、幅広い知識のアップデートが求められるといった部分では、少し苦労もあったと思います。

――『はたらく細胞』の医療監修では、特にどのようなことに気を付けていらっしゃいますか?

病気に関わる話を監修する際には、その病気の患者さんが作品を見た時に心を痛めるような内容にならないように、気を付けています。患者さんを悲しませるような言葉の表現を用いていないか、などをしっかり確認します。そういった、患者さんへの配慮は譲れない部分ですね。どの作品においても言えることですが、医療監修を引き受ける際には、最初に、このような患者さんへの配慮について、担当の方にもお伝えするようにしています。また、作品を通じて、若い人たちが「将来、自分も医療に携わりたい」と思ってくれたら…ということも意識していますね。「読者に希望を与えられるような作品にしたい」という思いを持って、監修しています。

その他には、「難しい内容をわかりやすく伝える」という部分では努力しています。例えば、医療分野で使われる言葉には、英語の略語で示された言葉が多くあって、どのような意味なのかをすぐに理解することが難しい場合もあるんですね。そういった言葉を読者にわかりやすく伝えるためには、略語の元の英語を調べて、その英語を日本語に訳して、そこから、さらにわかりやすい表現に直して…とさまざまな作業を行います。ただ、先程も話したように、『はたらく細胞』の作家や編集者の方々が、すごく努力されて内容について理解されていることが大前提としてありますので、私は、特に難しい内容の表現についてお手伝いをしています。

――最後に、『はたらく細胞』の読者へのメッセージをお願い致します。

『はたらく細胞』という作品を通じて、ぜひ、私たちの体の中の細胞がどのような働きをしているのか、正常な体の中ではどのようなことが起こっているのかを知って欲しいです。正常な体を維持するために、細胞たちがさまざまな働きをしているおかげで、恒常性が保たれているんですよね。そういった仕組みを知っていただき、「自分の体の健康を維持すること」を少しでも意識してもらえたら嬉しいです。

編集後記
原田知幸先生は、とても優しい先生で、肺炎球菌をわかりやすく解説してくださり、『はたらく細胞』の医療監修の話も詳しく教えてくださいました。「作品を見た患者さんを、悲しませるような内容にしたくない」と話してくださった姿からは、普段から、一人ひとりの患者さんと真摯に向き合っていらっしゃる姿が垣間見えた気がしました。

ちなみに、原田先生の好きなキャラクターは「血小板」だそうです。小さくて可愛らしい血小板ちゃんたちの姿に癒やされながら、「止血の働きなど、改めて血小板に関する知識の整理ができた人も多いのではないでしょうか?」と話されていました。ぜひ、皆さんも好きな細胞を見つけて、体の中でどのように細胞が働いているのかを知ってみてくださいね。(QLife編集部)

【原田知幸先生プロフィール】

平成5年3月:獨協医科大学卒業
平成5年4月:東京女子医科大学救命救急センター
平成14年10月:ピッツバーグ大学医学部集中治療医学
平成18年4月:東京女子医科大学救急医学講座 医局長
平成20年4月:東京女子医科大学救急医学講座 講師
平成27年10月:医療法人ひかり会 理事長 兼 パーク病院長
専門分野は一般内科、外科、消化器、救急医療。

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