今いちど、知っておくべき「自動車運転とお薬」のこと
[自動車運転とお薬] 2016/01/15[金]
危険ドラッグや麻薬だけでなく、病院でもらうお薬や市販薬も刑罰の対象に
道路交通法第66条では「何人も、過労、病気、薬物の影響その他の理由により正常な運転ができないおそれがある状態で車両等を運転してはならない。」と、薬物の影響によって正常な運転ができない状態で運転することを禁止しています。
「薬物」というと、最近問題になっている危険ドラッグや麻薬などが思い浮かぶかもしれません。ところが、ここで言う「薬物」は、実は普段服用しているお薬も含まれているのをご存知でしょうか。
お薬の中には、服用することで意識レベルの低下や眠気等などの副作用が出るものがあります。これらの副作用は、病院で処方される医療用医薬品に限らず、ドラッグストアなどでも購入できる一般用医薬品の中にもあらわれる場合があります。
「眠気等を引き起こすお薬は、向精神薬、パーキンソン病、糖尿病のお薬などのほかに、私たちが普段よく服用している風邪薬、花粉症の薬、胃薬などもあります。特にこれからは風邪を引きやすくなったり、花粉症のつらい症状に悩まされる時期になります。病院に行くのが面倒でと、市販薬を購入する機会も増えてきますが、こうした副作用は市販薬でも起こる可能性があり、気軽に買えるからといって油断は禁物です。」と語るのは、交通事故問題に詳しい、皮膚科医師で中村・平井・田邉法律事務所の弁護士としても活躍する田邉昇先生です。田邉先生に自分を守るお薬が他人を傷つけないために知っておくべき事について伺いました。
自動車運転等危険を伴う作業について指導が必要な薬剤
(2015年10月現在)
「警告」欄に記載のある医薬品が含まれる薬剤分類
抗パーキンソン剤 | 主として真菌に作用するもの |
「重要な基本的注意」欄に記載のある医薬品が含まれる薬剤分類
抗不安剤・催眠鎮静剤 | 抗てんかん剤 | 解熱鎮痛消炎剤・弱オピオイド剤 |
抗パーキンソン剤 | 抗うつ剤・精神神経用剤 | 総合感冒剤 |
その他の中枢神経系用薬 | 骨格筋弛緩剤 | 鎮けい剤 |
眼科用剤 | 耳鼻科用剤 | 不整脈用剤 |
血圧降下剤 | 血管収縮剤 | 虚血性心疾患用剤 |
その他の循環器官用剤 | 鎮咳剤・去痰剤 | 止しゃ剤・整腸剤 |
消化性潰瘍用剤・健胃消化剤・制酸剤 | その他の消化器官用剤 | |
ホルモン剤・抗ホルモン剤 | その他の泌尿器生殖器官用剤 | 習慣性中毒用剤 |
他に分類されない代謝性医薬品 | 骨代謝疾患用剤(カルシウム剤を除く) | |
抗腫瘍薬 | アレルギー用薬 | 主として一般細菌に作用するもの |
ウイルスに作用するもの | その他に分類されない治療を主目的としない医薬品 | |
あへんアルカロイド系製剤・コカアルカロイド系製剤 |
京都大学医学部附属病院 薬剤部「自動車の運転等危険を伴う作業に関する薬学的指導について」
http://www.kuhp.kyoto-u.ac.jp/~yakuzai/yakkyoku/20141022.html
滋賀医科大学医学部付属病院薬剤部「投与の際に、危険を伴う作業等について指導が必要な薬剤」
をもとに、QLife編集部で作成
死亡事故で最高懲役15年、負傷事故で最高懲役12年の刑罰が
警察庁によると、2014年1年間で、国内で発生した交通事故件数は約57万件、死傷者数は約72万人でした。交通事故ゼロを目指すための取り組みは、免許取得時はもちろん、自動車メーカーによる技術革新や地域や学校での啓蒙活動などさまざまな分野で行われています。その1つが、抑止力としての罰則強化です。2014年5月には「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」(危険運転等処罰法)が、6月には「改正道路交通法」が施行されました。
危険運転等処罰法では、病気の症状や薬物の影響で“正常な運転に支障が生じるおそれ”を認識していながら運転し、人を死傷させた場合に、死亡事故で最高懲役15年、負傷事故で最高懲役12年の刑罰が科せられる、としており、厳しい刑罰が科される可能性があります。
「少しの距離だから大丈夫」「運転に慣れているから問題ない」「普段、このお薬を飲んでも特に眠くなったりしないから」と思っても、お薬の中にはこうした眠気を伴う成分が入っているものや、運転中に意識を失うおそれがあるものもあります。また、道路交通法第66条の条文に「過労(中略)により正常な運転ができないおそれがある状態で車両等を運転してはならない。」とあるように、体調がすぐれない中で事故を起こしてしまった場合も刑罰の対象となります。
まずは医師や薬剤師に相談、添付文書やお薬のパッケージの記載も調べよう
では、「どの薬が自動車運転に気を付けなければならない」かをどうやって調べればいいのでしょうか?まずは、処方されたお薬ならば医師や薬剤師に、そして、OTC医薬品などの市販薬ならば、薬剤師や登録販売者に相談することが重要です。
「“お薬の説明書”ともいえる添付文書や処方せんにもその注意を促す記載がなされています。また、ドラッグストアで買うOTC医薬品でも、外箱や説明書(添付文書)に記載されています」(田邉先生)
病院で薬を処方されたときに、処方せんやお薬手帳などで「眠気、注意力、集中力などの低下が起こることがあるので、自動車の運転などの危険を伴う機械の操作に注意してください」という文言を見たことはないでしょうか。
添付文書やOTC医薬品の説明書には、このほかにも「してはいけないこと(禁止事項)」や「重要な基本的注意」、「次のような方は使う前に必ず担当の医師と薬剤師に伝えてください。」といった、注意を促す記載があります。
※上記画像はイメージです。
こうした注意が書かれていて、危険性を認識しながらお薬を服用して事故を起こした場合、上記のような罰則が科せられてしまう可能性があります。
QLifeのお薬検索(http://www.qlife.jp/meds/)では、こうした注意事項を、くまなく掲載しているのでチェックできます。ほかにも、すべてのお薬の情報を集約している独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)のホームページ(http://www.pmda.go.jp/index.html)にも情報が掲載されているのでチェックしてみましょう。
自分を守るお薬が他人を傷つけないために
交通事故は他人事ではありません。自分自身を守るために飲んでいるお薬が、他人を傷つける結果になってしまうこともあるのです。「ほんの軽い気持ちで飲んだお薬によって交通事故を引き起こさないために、体調が優れないときは運転を控える、またどうしても飲む必要がある場合は、なるべく眠気の出ないお薬を医師に処方してもらうなどして、対策を講じていくことが大切です。」(田邉先生)
田邉昇(たなべ のぼる) 先生
昭和59年 名古屋大学卒業。東京都立駒込病院で全科ローテート研修後、名古屋大学大学院入学。終了後国立名古屋病院を経て厚生省(当時)入省、健康政策局総務課長補佐などを歴任して退官。アクティ大阪田邉皮膚科外科での診療の傍ら、東京大学法学部、京都大学大学院法学研究科、神戸大学大学院経営学研究科などを卒業し、司法試験に合格。
現在は中村・平井・田邉法律事務所の弁護士として活動するほか、皮膚科を中心に診療も行っており、国立循環器病研究センター倫理委員会委員長や、国立病院機構の中央倫理審査委員、大学講師などを務めている。平成26年10月から施行された医療事故調査制度については、厚生省の施行に関わる検討部会のメンバーとして省令や通知の策定に関わってきた。
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