[特発性正常圧水頭症(iNPH)とは] 2010/10/08[金]

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歩きにくい、何回もつまづいて転ぶ、物忘れもひどいし・・・
高齢だから仕方がないとあきらめていませんか?
その歩行障害や認知障害、治せるタイプかもしれません

歩行障害、認知障害、尿失禁
もしかしたら、特発性正常圧水頭症(iNPH)という病気かも

東京共済病院 院長 桑名 信匡先生
東京共済病院 院長 桑名 信匡先生

 足が上がらず小刻みで歩く、足に力が入らなくてよく転ぶ、物忘れがひどくなった、トイレが近くなった…。こうした症状があっても、多くの人は歳のせいだろうと思い込んでしまいます。
 実は、特発性正常圧水頭症(iNPH)でも、同じような歩行障害や、認知症、尿失禁などの症状が起こります。
 iNPHとは、原因は明らかではないけれど、髄液の循環や吸収が悪くなり脳室に溜まって、脳が圧迫されて症状が起こる病気です。歩行障害、認知障害、尿失禁が代表的な3つの症状ですが、このうちの一つでも当てはまればiNPHを疑います。
 特に中心的な症状は歩行障害です。小股でよちよち歩く、少し足が開き気味で歩く、足が上がらずにすり足で歩く、歩きだしの一歩がでない、上手く止まることが出来ないなどの症状があり、不安定なので転倒することもあります。転倒・骨折から寝たきりになってしまうケースも多いですし、頭や顔をぶつけてしまうなど高齢者にとっては大変危険です。認知症としては、物忘れ、集中力や意欲の低下、呼びかけに対して反応が悪くなる、表情が乏しくなるなどの症状が出ます。また、トイレが近くなる頻尿や、尿意を我慢できなくなって尿失禁に至ってしまう、あるいは歩行障害があるためトイレに間に合わず、結局尿失禁してしまうこともあります。
 iNPHは、的確に診断されれば治療が可能です。歩行障害が起こってきたら、歳のせいだと片づけないで、病気として診ることが大事です。「もしかしたら」と思い当たる症状があれば、医師に相談しMRIやCTを撮って、頭の画像を調べてもらいましょう。歩行障害や認知症のある高齢者は、年に1回は画像検査をして、脳の変化をチェックしたほうがいいでしょう。

診断の決め手は髄液タップテスト
症状の変化を観察する

 iNPHの診断のポイントは、歩くスピードが遅くなった、不安定で何度も転ぶようになったなどの訴えがあること。そのうえでMRIやCTの画像で確かめてiNPHを疑えば、髄液を30ml抜いて、症状が良くなるかどうかを診ます(髄液タップテスト)。それまで3mも歩けなかったのに髄液を抜いた後に、スイスイ足が進むようになった、無表情でぼんやりしていたのがニコニコとし出すなど、明らかな変化を見せる人もいます。そういう人は、iNPHに間違いありません。具体的には、歩行テストでスピードが1割以上アップ、認知症のテストが1割以上改善、失禁回数が減るなどの改善が見られたら、やはり髄液が脳室に溜まったために起こるiNPHだったのだと診断されます。これは同時に手術の効果が期待できるということでもあります。しかしながら、評価スケールでは表れない会話の状態、表情や目の輝きなど数値では判断できないような改善も見逃さないようにすることが大事です。その点では、帰宅した後のこのような変化や経過をご家族などに観察して頂くことも重要です。
 それほど変化が見られない場合でも、MRIやCTの画像が典型的で症状も明らかならば、再度髄液タップテストを行うか、経過観察をしながら1年後にもう一度画像を撮ったりして、なるべく見逃さないようにしています。


適切な治療で、症状の改善が期待
患者さんの自立を取り戻すことにも

 過剰に溜まった髄液を、身体のほかの部分に流してあげるのがiNPHの治療法。髄液シャント術という方法で、皮膚の下に細いチューブを埋め込み、髄液が流れるバイパスを作ります。この手術は脳外科医には基本的なもの。かつては、脳室にチューブを入れて髄液を心房に導いていましたが、だんだん脳室から腹腔へ導くようになっていき、そして最近では、腰椎くも膜下腔から腹腔へ髄液を導く、腰椎-腹腔シャント術(L-Pシャント)が選択されるようになってきました。個々の患者さんごとに適正な髄液の流れになるように、バルブの圧を調節できるシステムになっているので、症状や状態の変化に合わせた微調整が可能です。
 術後は定期的に通院して、状態と症状の改善具合をフォローしていきます。リハビリなどを行い、運動能力の回復をサポートする場合もあります。
 髄液の流れがうまくコントロールされれば、脳への圧迫も取れて、それまで悩まされていた症状が改善します。手すりにつかまってもうまく歩けなかったのが、自力で歩けるようになり、一日中ぼんやりとしているだけだったのが、普通に会話ができるようになるなど。特に、尿失禁の回数が減っておむつが取れるというのは、介護の立場からは大きな福音です。リハビリパンツをはかせるときに、片足を上げることができるだけでも違いますから。
 この手術は、ご家族からの要望なども考慮し、しっかりした術前検査の上で、80歳や90歳といった超高齢者でも実施されることが多くなってきました。そして、保険適応でできるのです。
 本来の寿命を全うするまでの間、うまく歩けずに頭もぼんやりしたままで過ごすか、その人にとって意味のある生き方をするか、大きな違いではないでしょうか。

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