内視鏡下椎間板切除術ってどんな治療法ですか?【腰椎椎間板ヘルニア】

[内視鏡下椎間板切除術] 2014年10月28日 [火]

facebook
twitter
google
B
内視鏡下椎間板切除術(1)
内視鏡下椎間板切除術

細い筒を通して内視鏡を入れ、映像を見て手術する

 筋肉の損傷を最小限に抑え、体への負担が小さい手術です。背中のわずか2cmの切開口から細い筒を入れて内視鏡を挿入し、モニターの映像を見ながらヘルニアを切除するMED。この手術法の実際を、高橋寛先生に教えていただきました。

どんな治療法ですか?

傷口を小さくするなど、患者さんへの負担をできるだけ小さくした手術です。手術部位を鮮明に映し出すモニターを見ながら、ヘルニアを切除します。

皮膚の切開は2cm。二次元映像下でヘルニアを切除

高橋先生の執刀により、MEDでヘルニアの手術を受けた手術室スタッフと

 内視鏡を入れ、手術する部位を映像で見て確認しながら、ヘルニアを取り除く手術を内視鏡下椎間板切除術(Micro Endoscopic Discectomy:以下MED)といいます。手術器具は専用のものを用います。背中に2cm程度の小さな切開をし、目的の脊椎(せきつい)の位置に向かって細長い筒を差し込み、そこから内視鏡や手術器具を挿入し、その筒の中で操作しながら手術を行います。

 内視鏡とは、医療用のカメラ装置のことです。先端にレンズのついた細長い筒をカメラとライト装置に装着して体の外から差し込み、手術を行う部位を手術室に設置されたテレビモニターに拡大して映し出します。担当する医師、助手、看護師や麻酔医などスタッフ全員が同じ映像を見ながら、手術を進めることができます。

 映像は二次元の平面画像であり、実際の体内での位置関係を頭の中で再構築するには経験が必要とされます。現在は、カメラの関連機器の進歩によって、解像度の優れた非常に鮮明な画像(ハイビジョン)が得られるようになり、より安全で正確な手術が可能になっています。

筋肉の損傷を減らし術後の腰痛や筋力低下を防ぐ

 この手術は、アメリカのフォーリー医師とスミス医師が開発したもので、1997年に初めて報告されました。その後、間もなく日本にも導入され、私自身は2000年から行っています。日本で保険医療として承認されたのは2006年のことです。

 実際に手術を行い、最初に報告したのはフォーリー医師とスミス医師ですが、この手術の背景となる考え方は、日本の川口善治(かわぐちよしはる)医師(富山大学医学部整形外科准教授)の論文がきっかけとなっています。

 その内容は、腰椎(ようつい)椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)をはじめとする腰椎の手術後に残る腰痛やだるさ、筋力の低下などの症状について考察したもので、その原因として、手術の際にあけた傷口の筋肉に対する圧迫の度合いや、圧迫する時間の長さが挙げられています。圧迫が強く、しかもその時間が長ければ長いほど、背骨付近の筋肉(傍脊柱筋:一般に背筋と呼ばれる背骨わきの筋肉)に与える損傷が大きくなり、壊死(細胞が死んでしまうこと)を引きおこし、筋力の低下や痛みにつながることが示唆されました。

そこで、筋肉への圧迫を避け、圧迫の時間を短縮する手術法について研究が進み、試みられた方法の一つがMEDだったのです。

 また、患者さんにできるだけ負担の少ない手術(MIS/ MinimallyInvasive Surgery:最小侵襲手術)を行おうという考え方も普及し、MEDのような手術が評価されるようになってきています。

25度の角度がついた斜視鏡。操作の習熟には経験が必要

●内視鏡を用いる手術法
図1腰部の皮膚を切開したら円筒形のレトラクターを差し込む。レトラクター内部の空間に内視鏡と手術器具を入れ、内視鏡から送られる画像をモニターで見ながら手術を進める。内視鏡を用いる手術法

 MEDの目的は、神経(しんけい)を圧迫しているヘルニアを切除して、しびれや痛みなどの症状を取り除くことです。そこで、症状のもとになっている腰椎に達してから行う基本的な手技は、ラブ法とほとんど変わりません。ただし、そこに至る方法、実際に用いる器具、手術部位の見え方、さらに、手術を行う医師に求められる経験や習熟度などはまったく違ってきます。

 まず、背中の腰の部分の皮膚の切開は2cm程度と、より小さくなります。ラブ法では、視野と、術者が器具を操作する空間を確保するために、幅3cmほどの開創器(かいそうき)という器具でグッと傷口を押さえて広げておきます。MEDでは、直径16mm、または18mmの細長い筒(円筒型開創器・チューブラーレトラクター、以下レトラクター)を差し込み、筒の中の空間で器具の操作を行います。

 最も違うのは見え方です。肉眼で確認して行うラブ法とは異なり、内視鏡を使うMEDでは、モニターに映し出された映像を見ながら手術を進めます。MEDで用いられる内視鏡は斜視鏡といって、先端に約25度の角度がついているので、真上から見るより広い範囲を見ることができます。手術する部位が非常に明るく、鮮明に拡大されますが、直視下と違い、映像は二次元で立体的ではありません。

 これらMEDの特徴からメリットとデメリットをまとめると、それぞれ次のようになります。

 まず、メリットは、
●皮膚の切開が小さくて済む
●筋肉への損傷が小さい
●手術後の痛みが小さい
●歩行や退院までの期間が短い
●明るい視野で、手術部位が拡大される
●スタッフ全員が同じ画像を共有し、何かトラブルがあっても迅速に対処できる
など。

 一方、デメリットは、
●画像が平面的である
●狭い空間で器具を操作しなければならない
●手術時間がやや延長される
●術者の経験や習熟度が問われる
などです。

MEDのメリットを十分に生かし、安全で確実な手技を行うためには、手術を行う医師がMEDに習熟していることが欠かせない条件となります。

年齢は問わないが全身麻酔がかけられないと不可

 MEDを受けられる患者さんは、いわゆる腰椎椎間板ヘルニアの手術が必要となる患者さんです。通常は、初めて診察を受け、腰椎椎間板ヘルニアと診断されてから3カ月程度保存療法を続けても症状がおさまらなかったり、悪化したりする患者さん、初診時にすでにかなりの筋力低下(麻痺)が出ている患者さん、排尿や排便など馬尾(ばび)が障害されている可能性のある患者さんなどです。

 年齢は関係なく、中高生から80歳代まで、どんな年代でも可能です。ただし、全身麻酔がかけられない心臓病など、なんらかの病気をもっている患者さんには行われません。

 われわれの施設では、大学病院といった性格もあり、すでに腰椎椎間板ヘルニアと診断され、一連の保存療法を行っても症状のとれない患者さんの紹介などが多いため、3カ月という観察期間にとらわれず、状況に応じて手術を行う時期を判断しています。

 また、われわれの施設の特徴として、院内の看護師や事務職などのスタッフに対する手術が多いことが挙げられます。これは、われわれ整形外科チームの技術が信頼されていることの証明と自負しています。

高橋 寛 東邦大学医療センター大森病院整形外科教授
1964年東京生まれ。88年東邦大学医学部卒業。同大医学部付属大森病院整形外科等を経て、98年から1年間、米国カリフォルニア大学(UCSF)留学。2004年東邦大学医療センター大森病院整形外科講師、09年同准教授、11年同教授、脊椎脊髄病診療センター長、12年任用換えにより東邦大学医学部整形外科教授。

(名医が語る最新・最良の治療 腰部脊柱管狭窄症・腰椎椎間板ヘルニア 平成25年2月26日初版発行)

記事の見出し、記事内容、およびリンク先の記事内容は株式会社QLifeの法人としての意見・見解を示すものではありません。
掲載されている記事や写真などの無断転載を禁じます。

「痛み」の注目記事