MIS固定術の治療の進め方は?【腰部脊柱管狭窄症】

[MIS固定術] 2014年8月19日 [火]

facebook
twitter
google
B
MIS固定術(2)

皮膚に小さな孔をあけて細いレトラクターを入れそのレトラクターを通して手術器具を出し入れ。削った骨を細かく砕いて椎間に移植し、椎弓をスクリューで止めて固定します。

直径22mmの円筒を通して手術器具を出し入れする

 ここでは、除圧と椎間の固定にレトラクターを使い、その後、皮膚を通して4カ所にスクリューを入れる1椎間のMIS固定術について説明します。

 この手術は全身麻酔で行います。患者さんはうつぶせの状態で、目的の腰椎間に当たる部分の、背中の真ん中から左(場合によって右)に4cmほどの位置で、約2.5cm程度の長さで皮膚を切開します。

 この傷口から、筋肉と筋肉の隙間(すきま)を通して椎弓のところまで、円筒形のレトラクターを差し込みます。さまざまな直径のものがありますが、私は直径22mmのものを使っています。手術は、レトラクターの円形の口からのぞき込む形で、患部を拡大する顕微鏡を見ながら進めます。必要に応じてX線透視画像で、器具の位置を確認します。

●手術室のセッティングと手術の開始
図6手術室のセッティングと手術の開始

 まず、骨を削る小さな骨ノミなど専用の器具を使って、進入した側の椎弓を削って、脊柱管の中が見えるようにします。そこで、馬尾や神経根を圧迫している黄色靱帯や椎弓の部分を切除し、内部から器具を差し入れて、反対側の椎弓の一部も削り、神経を開放します。このとき、削り取った骨は手もとに残しておいて、あとで移植に使います。

 除圧が終わったら、次に専用の器具を用いて、つぶれて狭くなっている椎間を広げます。ちょうど車のタイヤ交換のときにジャッキアップするような要領です。

 そして、レトラクターを差し込んだのとは反対側(左側からレトラクターを入れた場合は右側)の皮膚に小さな傷口を2カ所あけ、X線透視画像で確認しながら、固定を行う上下の椎弓根(こちらを参照)にスクリューを入れます。

 次にレトラクターを通して、広げた椎間から椎間板をきれいに取り除きます。

 削り取って残しておいた骨は器械を使って細かく砕き、椎間のあいた部分に移植します。移植骨だけでは、椎間のあきを保てないので、ケージというチタン製の金属の小さな箱を1個、または2個、椎間に入れます。ケージの中にも細かく砕いた骨を入れ、箱の外側にも骨をまぶすようにします。移植した骨は、半年から1年くらいたつと、上下の椎体の骨とくっついて(癒合)、しっかりとした背骨になります。

 骨移植が終わったら、レトラクターを差し込んだ側の皮膚に小さな傷口をあけ、そこから、先ほどと同様の要領で、上下の椎弓根にスクリューを入れます。最終的に両側のスクリューの角度を確認してロッドでしっかりつないだら、スクリューを入れた皮下を縫合し、傷口をテープでふさぎます。

 スクリューとロッドによる固定は左右それぞれ行うので、1椎間を固定するのにスクリュー4本とロッド2本を使うことになります。

 最後にレトラクターから手術部位を洗浄し、レトラクターを抜きます。血液が体内にたまらないようにする管(ドレーン)を入れて、傷を縫合し、手術を終了します。

 手術時間は2~3時間程度です。スクリューとロッドは、感染をおこすなど特殊な状況にならない限り、原則としてそのまま抜きません。スクリューが入っていても、それが理由で痛みが発生するといったことはないので、入れたままにしておいても心配ありません。

●椎間の固定とスクリューの刺入(手術)
図7椎間の固定とスクリューの刺入(手術)

術後48時間で離床可能。入院期間は8日間程度

●入院から退院まで
図8
入院
手術前日
・手術前検査
・手術内容の説明
・術後の安静状態の経験
・手術前日は0時以降食禁止
手術当日 ・5時より飲水禁止
・手術室に入る。麻酔開始
・手術
・あお向けの状態でベッド上安静
・フットポンプをつける(24時間)
・点滴
・排尿は管で、排便はベッド上で
術後1日目 ・フットポンプをはずし、弾性ストッキングに
・点滴終了
・鎮痛薬を内服
・ベッドの角度30度まで可
・看護師の介助で横向き可
・腸が動けば食事開始
術後2~3日目 ・コルセット着用で歩行器歩行可
・トイレ排尿可
・ドレーンを抜く
術後4~5日目 ・歩行が安定したら歩行器なしの歩行可
退院
術後6~7日目
・抜糸
・次回外来予約
・痛みやしびれの改善、日常の動作に問題がないなどを目安に退院
・次回外来予約
・術後3~6カ月間コルセット着用


●MIS固定術の基本情報
図9
全身麻酔
手術時間 ―――――― 2~3時間
入院期間 ―――――― 8日間程度
費用――手術、入院、検査等を含め約45万円(健康保険自己負担3割の場合。ただし、高額療養費制度の対象のため、実際の自己負担額はさらに低い)

*費用は2013年1月現在のもの。今後変更の可能性がある。

(東邦大学医療センター大森病院の場合)

 術後48時間は安静に過ごしてもらいますが、食事のときなどはベッドを起こしても大丈夫です。脚の血管にできた血栓が肺に飛んで詰まる肺塞栓症(はいそくせんしょう)を予防するため、術後24時間はフットポンプを使い、その後退院までは弾性ストッキングをはいてもらいます。

 手術翌日までは、排尿は管を通して、排便はベッド上でしてもらうのですが、2日目以降は自力で歩ける人は歩いてトイレに行ってもらいます。歩くのが難しい場合は、車いすを使います。私の場合、火曜日に手術をすることが多いのですが、木曜日の朝、回診に行くと、患者さんは「ベッドから離れて、トイレに行きたい」ということが多く、普通はそこで許可します。

 もちろん、患者さんによって状態が違うので、全員が術後48時間で歩けるようになるとは限りませんが、多くの人はこの時点で自力でベッドを離れることが可能です。

 入院は8日間程度です。MISでない従来法の固定術の場合は、2週間程度の入院が必要になるので、入院期間が短いのはMIS固定術の大きなメリットです。

 退院後、特に異常がなければ、半年まではほぼ1カ月に1回、以後2年までは半年に1回、その後は年1回のタイミングで診察しています。移植した骨がしっかりくっつくのは、術後半年から1年くらいです。

 一般的に、術後3~6カ月間はコルセットを着用してもらいます。骨がしっかりつくまでは、日常生活で無理な運動は避けるようにお願いしていますが、骨がしっかりとついたことが画像検査で確認できれば、普通に運動していただいても問題ありません。

痛みの改善の早さがメリット。症状の改善率は従来法と同じ

 MIS固定術のメリットは、痛みの改善が早いことにあります。

 患者さん自身が痛みの程度を判断するVASスコアを使って、MIS固定術と従来法による固定術を比べた、私たちの施設のデータがあります。VASスコアはいちばん痛かったときを100、まったく痛くない状態を0として、自分で痛みの度合いを判定するものです。

 図10はそのデータをグラフにしたものですが、術後1カ月まではMIS固定術のほうが点数が低い、すなわち痛みが小さいことがわかります。ただし、6カ月を過ぎると、手術法による痛みの違いはほぼなくなります。

●術後の回復が早いMIS固定術
図10術後の回復が早いMIS固定術
●長期的な症状の改善には差がない
図11長期的な症状の改善には差がない

 また、図11はMIS固定術と従来法による固定術で、術後の安静に寝ている期間(臥床期間)と入院日数(在院日数)を比べた、私たちの施設でのデータをグラフにしたものです。MIS固定術は安静に寝ている期間が2.2日、従来法による固定術では4.5日でした。また、入院日数はMIS固定術が7.5日、従来法による固定術は14.2日でした。痛みだけでなく、回復の程度もMIS固定術では早いことがわかります。

 一方、JOAスコアを使って、私たちの施設で手術によってどのくらい症状が改善したかを調べたデータもあります。JOAスコアとは前述のように、日本整形外科学会が腰椎治療の判定基準として定めたものです。29点満点で判定し、点数が高いほど痛みは少ないとされます。術前のJOAスコアと調査時点でのJOAスコアともに、MIS固定術と従来法による固定術の間に差はありません。また、改善率もMIS固定術が76.5%、従来法による固定術が73.2%とほぼ同じでした(図11参照)。

 このことから、MIS固定術は従来法による固定術と比べて、痛みの改善が早く、安静に寝た状態で過ごす期間や入院日数も短いというメリットがある一方、長期的な症状の改善については、差がないということがわかります。

 MIS固定術にはメリットもありますが、手術法にかかわらず症状の改善は4分の3程度で、4分の1程度の痛みやしびれなどは残ります。いずれの手術法であっても、これが現在の手術の限界だということは、患者さんにあらかじめ理解しておいていただく必要があります。

 米国では健康保険制度の違いもあり、脊椎の手術のうち、除圧術のみの場合も含め、25~30%がMIS手術になっています。日本ではまだそこまで普及しておらず、最終的な治療成績が変わらないのであれば、従来法で構わないと考える医師も少なくありません。また、特別な器具が必要となるのも、普及が進まない原因の一つかもしれません。

 さらに、MIS固定術をするためには、一定の習熟期間が必要です。しかし、医師が習熟すれば明らかにメリットのある手術法だと思います。何より外科的な処置が原因となる痛みは、できる限り減らすべきだと私は考えています。

和田 明人 東邦大学医療センター大森病院 整形外科准教授
1965年千葉県生まれ。91年東邦大学医学部卒業。98年東邦大学医学部整形外科学第1講座助手、2003年米国The University of Tennessee Health Science Center Department of Neurosurgeryへ1年間留学。05年横浜東邦病院整形外科部長、08年東邦大学医学部整形外科学第1講座助教、09年東邦大学医療センター大森病院整形外科講師。09年12月から11年11月までは東邦大学医学部整形外科医局長も務める。12年から現職。

(名医が語る最新・最良の治療 腰部脊柱管狭窄症・腰椎椎間板ヘルニア 平成25年2月26日初版発行)

記事の見出し、記事内容、およびリンク先の記事内容は株式会社QLifeの法人としての意見・見解を示すものではありません。
掲載されている記事や写真などの無断転載を禁じます。

「痛み」の注目記事