棘突起縦割式椎弓切除術の治療の進め方は?【腰部脊柱管狭窄症】

[棘突起縦割式椎弓切除術] 2014年7月08日 [火]

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棘突起縦割式椎弓切除術(2)

背中を5cm程度切開します。棘突起に孔をあけてから縦に割り、観音開きのようにして左右に開きます。この視野から、脊柱管の除圧を行います。

棘突起に小さな孔をあけ、ノミで縦に割る

●手術室のセッティング
図2手術室のセッティング

 ここでは、いちばんよくみられる第4腰椎と第5腰椎の間に神経の圧迫があり、この部分の1椎間を除圧する場合について説明します。

 手術は全身麻酔で進めます。患者さんは手術台にうつぶせの姿勢になります。

 皮膚の切開は、第3腰椎の棘突起の下あたりから、第5腰椎の棘突起の上あたりまでです。患者さんの体格によって長さは異なりますが、5cm程度の切開となります。

 皮膚の下の脂肪層を切開し、第4腰椎の棘突起を露出します。次に、歯科で歯を削るのに用いるような直径2mmのエアトームという手術器具を使って、棘突起の表面に小さな孔を複数あけます。この部分は皮質骨と呼ばれる硬い骨の部分です。さらに、骨ノミで棘突起を縦に割ります。あらかじめ表面の硬い皮質骨に孔をいくつかあけてあるので、内部の軟らかい海綿骨は、簡単に割ることができます。

 割った棘突起は、コブエレベーターと呼ばれる手術器具を使って、根元の部分を椎弓から分離させます。次に、棘突起どうしをつないでいる棘上(きょくじょう)・棘間(きょくかん)靱帯を棘突起についたまま左右に分割し、筋肉、靱帯がついたままの棘突起を、観音開きのように大きく横に広げます。すると、そこから手術する部分が、よく見えるようになります。

●手術開始。棘突起を割り視野を確保(手術)
図3手術開始。棘突起を割り視野を確保(手術)

真上から直接目で見て骨や黄色靱帯を削る

 視野を確認したところで除圧に入ります。除圧する部分を真上から直接目で見ながら手術を進めます。除圧は、エアトームを用いて、神経を圧迫している部分の椎弓を削り、黄色靱帯も切除します。これで、狭くなっていた脊柱管を広げ、馬尾(ばび)や神経(しんけいこん)根への圧迫を取り除くわけです。神経の動きを見て十分に除圧できたかを確認し、腰椎椎間板ヘルニアなど、ほかの圧迫要因がないかも調べたら除圧終了です。

 除圧を終えたら、出血がないことを確認し、ドレーンと呼ばれるチューブを設置します。術後ににじみ出てくる血液や体液を、体外に排出するためのチューブです。その後、縦割した棘突起の中央にエアトームで小さな孔を1、2カ所あけ、そこに糸を通して棘突起を縫合し、もとの形に戻します。さらに、棘間・棘上靱帯、皮下、皮膚も縫合して手術を終えます。

 手術時間は1カ所の除圧の場合、40分程度です。ほかの手術法に比べて、縦割術は手術時間も短いのが利点です。手術時間が短いと、それだけ筋肉などの組織の損傷も抑えられるからです。また、患者さんだけでなく、手術する医師やスタッフの負担も、それだけ軽くなります。

●神経の圧迫を取り除く
図4神経の圧迫を取り除く
図5

術後2日目からは歩行可能。入院期間はほぼ2週間

●入院から退院まで
図6
入院
手術2日前
・手術前検査
・手術内容の説明
・手術後のベッド上での飲食、排泄(はいせつ)、動きなどの練習
・手術前日は21時以降飲食禁止
手術当日 ・点滴開始(翌日まで)
・手術室に入る。麻酔開始
・排尿のための管を入れる
・手術
・異常がないことを確認して病室へ
・ベッド上安静
・血栓予防のフットポンプ装着
・痛み止め使用
術後1日目 ・ベッド上で横向き可。ベッドは30度まで起こせる
・腸が動けばおかゆから食事開始
・抗菌薬点滴
・排尿は管で、排便はベッド上で
術後2日目~10日目 ・歩行器を使用して歩行練習、安定したら自立歩行へ
・フットポンプ終了
・食事は普通食に
・尿の管を抜く。トイレでの排尿・排便可
・ドレーンを抜く
・傷を保護してシャワー可(6日目~)
・抜糸(9~10日目)
退院
術後9~11日目
・次回外来予約


●棘突起縦割式椎弓切除術の基本情報
図7
全身麻酔
手術時間 ―――――― 約40分
入院期間 ―――――― 12日~2週間
費用――手術、入院、検査等を含め約25万円(健康保険自己負担3割の場合。ただし、高額療養費制度の対象のため、実際の自己負担額はさらに低い)

*費用は2013年1月現在のもの。今後変更の可能性がある。

(慶應義塾大学病院の場合)

 術後当日は、ベッド上で安静に過ごし、血栓予防のためのフットポンプを装着します。術後1日目もベッド上で過ごしますが、横向きになったり、30度の角度でベッドを起こしたりすることはできます。膀胱(ぼうこう)には管が入っていて、その管を通じて排尿することになります。排便はベッド上でしてもらいます。

 術後2日目からは、歩行が可能です。排尿のための管を抜き、歩行器を利用するなどして自分で歩いてトイレに行くことができます。体液や血液の排出状況を確かめ、問題なければ傷口に取りつけたドレーンを抜きます。術後6日目には傷がぬれないようにテープで保護して、シャワーを浴びることができます。術後9~10日目に抜糸します。抜糸後問題なければ退院も可能です。腰部脊柱管狭窄症の縦割術の場合、入院期間はおおむね12日~2週間です。

 棘突起は数カ月でしっかりくっつきます。一般に骨がしっかりくっつくのには半年程度かかりますが、手術中に棘突起から筋肉を終始はがすことなくついたままにしておくので血流が良好であり、骨の再生が盛んに行われて、くっつきやすいのだと考えられます。

術後7日で比べると縦割術は痛みが軽い

 私たちは術後早期の患者さんの痛みについて、縦割術と従来の椎弓切除術の両者で比べてみました。縦割術は18人、従来法は16人の患者さんで、平均年齢、平均除圧椎間数、平均手術時間、平均術中出血量のすべてにおいて、両者に差はありません。

 術後3日目と7日目に患者さんにアンケート調査を実施し、手術の傷口の痛みについて、最も痛い状態を100点、まったく痛くない状態を0点として、自己評価してもらいました。その結果、縦割術では平均で43点から16点に低下しましたが、従来法では44点から34点への低下にとどまりました。

●JOAスコアでみる痛みの改善
図8調査の結果、縦割術で行う除圧術は、従来法より手術後の痛みからの回復が早く、筋肉損傷は少ないことがわかった。(値は平均値)JOAスコアでみる痛みの改善

 痛みの深さについては、あまり変わっていませんでした。さらに痛みの持続時間については、縦割術のほうが早く低下していました(図8参照)。

 これらのことから、縦割術で除圧を行うと、従来法に比べて、術後3日目では痛みにあまり違いがないものの、術後7日目では痛みは軽くなっていることがわかりました。縦割術では術後の回復が早いことがわかったのです。

 また、手術前、手術後3日目と7日目に血液検査を行い、CPK(クレアチンフォスフォキナーゼ)という成分を測定して、筋肉の損傷の程度を比較しています。CPKというのは筋肉の中にある酵素の一種で、筋肉の細胞に異常があると血液中に流れ出します。手術によって筋肉が損傷を受けると、CPK値が上がることになります。この結果を縦割術と従来法で比べると、従来法の値が高く、縦割術のほうが筋肉の損傷が少なく、回復も早いことがわかります(図8参照)。


 なお、日常生活動作(食事、着替え、移動、寝起き、入浴など生活上の動き)については、術後3日目で比べると、縦割術のほうが従来法に比べてやや早く回復する傾向がありましたが、術後7日目で比べると両者に差はありませんでした。

 また、腰部脊柱管狭窄症による痛みの改善率では、1年後で縦割術が75%、従来法が74%で、長期的な成績は変わりがありませんでした。

 こうした研究結果から、縦割術は手術後の痛みを早期に軽くする効果のある手術法だと考えられます。また、手術の効果、安全性にも問題はなく、腰部脊柱管狭窄症の除圧術において、私たちの施設では第一選択の手術法と位置づけています。

渡辺 航太 慶應義塾大学先進脊椎脊髄病治療学講師
1972年神奈川県生まれ。97年慶應義塾大学医学部卒業。同大医学部整形外科に入局、総合太田病院(現太田記念病院)整形外科等を経て、2002年から2年間、慶應義塾大学生理学教室に所属。04年同大医学部助手。05年から1年間、米国ワシントン大学整形外科留学。06年慶應義塾大学先進脊椎脊髄病治療学助手、07年同大医学部整形外科助教、08年から現職。

(名医が語る最新・最良の治療 腰部脊柱管狭窄症・腰椎椎間板ヘルニア 平成25年2月26日初版発行)

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