内視鏡手術の治療の進め方は?【腰部脊柱管狭窄症】
[内視鏡手術] 2014年7月22日 [火]
円筒形のレトラクターという器具を通して内視鏡と手術器具を出し入れ。片側から入って、両側の椎弓の一部と黄色靱帯を切除します。
レトラクターの直径は16mm。術者は映像を見ながら手術する
腰部脊柱管狭窄症に対する内視鏡手術は、全身麻酔で行います。患者さんはうつぶせの姿勢で、背中側から手術をします。
ここで紹介する手術法は、正式には「内視鏡下片側進入両側除圧術」といいます。片側進入というのは、背骨の左側もしくは右側から円筒形のレトラクターという器具を入れて、神経への圧迫を除くための進入路を作るという意味です。両側除圧というのは、左右どちらから進入したとしても、その一つのレトラクターから、背骨の左右両側とも除圧することを意味します。
左右どちらから進入するかについては、原則を定めています。(1)症状の強い側から入る、(2)症状に差のないときは、画像検査で手術がやりやすいと考えられる側から入る、(3)左右差がない場合は左側から入る、というものです。(1)から順に当てはめていきます。私の場合、手術自体は左側から進入したほうがやりやすいので、左右差がなければ左側から進入しています。
手術台上での患者さんのX線透視画像を見て、レトラクターを入れる位置を確認し、マークをつけます。まず、背中の中央から約1cm外側で、縦に2cm程度皮膚を切開します。次に電気メスで皮下組織や筋膜を切開し、そこから直径5.3mmの細い筒状のダイレーターという器具を差し込みます。この細い筒で、背骨のわきにある傍脊柱(ぼうせきちゅう)筋という筋肉を椎弓からはがし、除圧のために削り取る椎弓の位置をX線で透視して確認しておきます。
このダイレーターに、次々に径がやや太いダイレーターをかぶせて入れ、筋肉を少しずつ押し開いていきます。最終的に直径16mmの円筒形のレトラクターを入れて、固定します。
このレトラクターを通して内視鏡や手術器具を出し入れし、手術を行います。内視鏡はレトラクターの径よりも少し広い範囲を映すことができ、この映像をモニターで見ながら医師は手術を進めていきます。
内視鏡やレトラクターの角度を調節して両側を処置する
まず椎弓にくっついている筋肉や組織を除去して、椎弓が見えるようにします。次にドリルを使って、神経の圧迫に関係している部分の骨を、窓をあけるように削ります。さらに、レトラクターや内視鏡の角度を調節しながら、進入側だけでなく中央部の骨や、反対側の骨を、内側からくり抜くように削っていきます。黄色靱帯は骨を削る際に、神経の損傷を防ぐプロテクターとして残しておき、骨を十分に削り終わったら、進入側、次いで反対側の順に切除します。内視鏡は脊柱管の中に入り込むことができるので、肉眼では見えない反対側の内部をモニターで見ながら手技を行うことができます。この一連の手順を示したのが図4です。
黄色靱帯を切除したら、神経の圧迫が十分にとれているかを確認し、手術した部分をよく洗浄して、血液や体液を排出するためのチューブ(ドレーン)を設置します。筋膜と皮下組織は自然吸収される糸で縫い、皮膚はテープで止めて手術を終えます。
現在の手術時間は1時間程度となっています。
術後1週間で退院可能。簡易コルセットを2カ月使用
入院 手術2日前か前日 |
・手術前検査 ・手術内容の説明 ・術後のためにリハビリを計画 ・手術前日は21時以降飲食禁止 |
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手術当日 | ・手術室に入る。麻酔開始 ・手術 ・ベッド上安静 ・看護師の補助で横向き可 ・抗菌薬点滴 ・血栓予防の弾性ストッキング着用 ・腸が動けば飲水可 ・排尿は管で、排便はベッド上で |
術後1~2日目 | ・流動食から食事開始 ・抗菌薬点滴 ・コルセット着用で車いす可 ・歩行可能ならコルセット着用で歩行可 ・トイレ排尿可 ・ドレーンを抜く ・点滴終了(2日目) |
術後3~6日目 | ・歩行が安定したら、弾性ストッキングをとる ・傷の状態に応じ入浴可(4日目以降) |
退院 術後1週間 |
・痛みやしびれの改善、炎症がない、日常の動作に問題がないなどを目安に退院 ・次回外来予約 ・2カ月程度コルセット着用 |
全身麻酔 |
手術時間 ―――――― 約1時間 |
入院期間 ―――――― 9日間程度 |
費用――手術、入院、検査等を含め約30万円(健康保険自己負担3割の場合。ただし、高額療養費制度の対象のため、実際の自己負担額はさらに低い) |
*費用は2013年1月現在のもの。今後変更の可能性がある。
手術を受けた当日は、ベッドにあお向けになった状態で、安静に過ごすことが大切です。排尿は管を通して行います。翌日からおなかの調子がよければ、食事をとることができます。ベルト式の簡易コルセットを着用したうえで、自分で歩ける人は歩いてトイレに行くことができます。歩くことに不安のある人には、車いすを使ってもらいます。
術後1日目もしくは2日目でドレーンを抜きます。術後4日目以降、傷口の状態に応じて入浴が可能になります。手術前より痛みやしびれが改善している、手術部位に炎症がない、日常生活を送るのに不自由がないなどを確認し、術後1週間で退院するのが一般的です。
退院後は1~3カ月おきに診察します。なお、簡易コルセットは、手術した背骨の部分が安定するまで、退院後2カ月程度は使ってもらうようにしています。
退院後、しばらくは、腰を強く曲げたり、ひねったりする動作はしないように指導しています。また、重いものも持たないほうがいいでしょう。長時間の外出もしばらくは控えるように注意しています。
ただし、生活の必要上、仕事に復帰する人もいて、これらの注意を守れない人もいるようです。医師としては無理をしないでほしいのですが、長時間外出したからといって重大な問題になったことは、これまでほとんどありません。
内視鏡手術は痛みが軽く、出血量も少ない
拡大開窓術 | 内視鏡手術 | |
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手術時間(分) | 70.8 | 107.0 |
術中出血量(ml) | 29.7 | 19.1 |
術後鎮痛処理回数(回) | 1.90 | 0.23 |
最高発熱(℃) | 37.9 | 37.6 |
術後平熱に戻るまでの期間(日) | 3.93 | 2.27 |
術後1週間の平均CRP値(mg/dl) | 1.57 | 0.44 |
*数値はいずれも平均
腰部脊柱管狭窄症に対する内視鏡手術と一般的な手術の成績を比較したデータはほとんどないため、対象人数は少ないのですが、私が以前勤務していた済生会川口(さいせいかい)総合病院で調べたときのデータを、表1に示しておきます。
1椎間について、拡大開窓術をした人と内視鏡手術(内視鏡下片側進入両側除圧術)をした人との術後の成績を比較したものです。手術中の出血量は、拡大開窓術では平均29.7mlに対し、内視鏡手術では平均19.1mlでした。術後の鎮痛処理回数は、拡大開窓術では平均1.90回、内視鏡手術では平均0.23回でした。炎症反応を示す血液中のCRP値(CRPは炎症がおこっているときに増加するたんぱく質。次の値は術後1週間の平均)は、拡大開窓術では平均1.57mg/dl、内視鏡手術では平均0.44mg/dlでした。これらは、内視鏡手術のほうが、拡大開窓術よりも、患者さんの体への負担が小さく、痛みも軽かったことを示すものです。
さらに、術後の発熱が平熱に戻るまでの期間も、拡大開窓術では平均3.93日、内視鏡手術では平均2.27日でした。この差はそれほど大きなものではありませんが、傾向として内視鏡手術のほうが、体への負担が小さかったことを示唆するものといえるでしょう。
ただし、手術時間は、拡大開窓術では平均70.8分だったのに対し、内視鏡手術では平均107.0分かかっています。内視鏡手術がそれだけ高度な技術を要する難しい手術であることを示しているといえます。腰部脊柱管狭窄症に対する内視鏡手術は、患者さんの体への負担の小さい優れた手術法ですが、熟練した医師によって行われる必要があるということになります。
なお、長期的な成績はまだ出ていませんが、おそらく拡大開窓術と内視鏡手術の、どちらの手術法をとっても、神経症状に対する結果に差はないものと思われます。
江幡 重人 山梨大学医学部附属病院整形外科講師
1962年茨城県生まれ。91年山梨医科大学(現山梨大学医学部)卒業。同年東京医科歯科大学整形外科教室入局。済生会川口総合病院にて脊椎外科を専門に診療するなどしたあと、2010年4月山梨大学医学部整形外科助教、同年7月から同講師。
(名医が語る最新・最良の治療 腰部脊柱管狭窄症・腰椎椎間板ヘルニア 平成25年2月26日初版発行)