拡大開窓術ってどんな治療法ですか?【腰部脊柱管狭窄症】

[拡大開窓術] 2014年6月24日 [火]

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拡大開窓術(1)
拡大開窓術(かくだいかいそうじゅつ)

神経の圧迫をとるスタンダードな手術法

 圧迫された神経を開放する除圧術として、現在、最も普及している手術法です。腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)の手術を多数手がける遠藤健司先生に、手術法の特徴や進め方についてうかがいました。

どんな治療法ですか?

背中から皮膚を切開し、必要最小限の椎弓(ついきゅう)の一部だけを切除する手術法です。オーソドックスな手術法として確立されており、多くの施設で行われています。

狭窄の主な要因がわかり、手術法が改良されてきた

●東京医科大学整形外科における腰部脊柱管狭窄症の手術
図1東京医科大学整形外科における腰部脊柱管狭窄症の手術
●拡大開窓術と椎弓(ついきゅう)切除術
図2拡大開窓術と椎弓(ついきゅう)切除術

 腰部脊柱管狭窄症は、60歳以上の高齢者によくみられる病気です。図1は東京医科大学整形外科における脊椎(せきつい)の手術件数と、そのうちの腰部脊柱管狭窄症の手術件数を示したものです。脊椎の手術には大きく分けて、神経の圧迫を取り除く「除圧術」と、曲がっているものを治す「再建術」があり、拡大開窓術は除圧術の一つです。

 腰部脊柱管狭窄症に対しては、古くから除圧術として椎弓切除術が行われてきました。背中から皮膚を切開し、棘突起(きょくとっき)や椎間(ついかん)関節の一部、黄色靱帯(おうしょくじんたい)まで含め、椎弓を丸ごと切除する方法です。しかし、画像診断の発達で、脊柱管狭窄をおこす主な要因は、椎間関節の内側部と黄色靱帯であることがわかってきました。

 狭くなった脊柱管を開放して、中を通る神経(馬尾や神経根)への圧迫を除くという意味では、椎弓をすべて切除する方法で問題ありませんが、この方法では、狭窄に関係のない棘突起や椎間関節、棘突起をつないでいる棘間靱帯(きょくかんじんたい)まで、すべて取り除いてしまうことになります(背骨の構造はこちらを参照)。そこで、患者さんの体への負担をなるべく減らすという観点から手術法が改良され、拡大開窓術と呼ばれる手法へと移行してきたのです。こうした経緯から、拡大開窓術も健康保険上では、椎弓切除術の一つとして扱われています。

 拡大開窓術は1990年代から普及してきました。これ以前から医師の判断で同様の手術は行われていたと考えられますが、拡大開窓術という名前で行われるようになったのはこのころからです。

圧迫している部位だけを取り除く安全確実な手術法

●椎弓に窓をあけるか、すべて取り除くか
図3椎弓に窓をあけるか、すべて取り除くか

 拡大開窓術は、椎弓のどの部分が神経を圧迫しているか、きめ細かくとらえ、椎弓のなかでも、圧迫部分だけを削り取る方法です。黄色靱帯は切除しますが、椎間関節はできるだけ多くを残します。

 積み重なっている椎弓を子細(しさい)に見ると、組み合わさっている椎間関節の内側の部分が、神経を圧迫していることが多いので、この付近を削り取ります。すると、背中側から見て椎弓に窓をあけたような状態になるので、開窓術と呼ばれます。

 また、脊柱管を通る馬尾から分かれて腰椎(ようつい)の外へとのびる神経の根元にあたる、神経根も圧迫されていることが多いので、窓を少し横に広げる形で椎弓を削ります。開窓術に「拡大」がつくのはこのためです。

 拡大開窓術はいま最も普及している安全で確実な手術法で、狭窄の強い患者さんがそれほど多くない一般の病院であれば、腰部脊柱管狭窄症の手術のうち6割以上に行われていると思われます。当施設は大学病院という性格上、より重症の患者さんが多いため椎弓切除術の割合が高く、拡大開窓術の割合は一般の病院より低めですが、それでも約半数の患者さんに行っています(図1参照)。ただし、狭窄が強い場合には、手術途中で椎弓切除術に移行せざるをえないこともあります。

 拡大開窓術は顕微鏡下や内視鏡下で行われることもあり、施設によってはそうした方法を得意としているところもあります。

 拡大開窓術に適しているのは、脊椎(背骨)自体にずれや不安定性が少なく、体を支える支持性が保たれている場合です。神経を圧迫している部分はあるものの、背骨自体はしっかりしていて、椎骨どうしのつながりが不安定になってずれたり、ぐらついたりしていない状態です。椎骨がずれたり、グラグラしている場合には、必要に応じて、椎骨どうしをつないで固定する、脊椎固定術を追加します。

遠藤 健司 東京医科大学病院整形外科講師
1962年東京都生まれ。88年東京医科大学卒業。92年米国ロックフェラー大学に留学、神経生理学を専攻。95年東京医科大学霞ヶ浦病院整形外科医長、2004年東京医科大学整形外科医局長、07年から同講師。

(名医が語る最新・最良の治療 腰部脊柱管狭窄症・腰椎椎間板ヘルニア 平成25年2月26日初版発行)

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