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[注目疾患!] 2016/10/14[金]

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慢性痛

体の組織や神経にダメージを負い、原因となったけがや病気が治った後も3か月以上続く痛みを「慢性痛」と言います。日本には約1,700万人の慢性痛患者がいるとみられますが、病院に通院中の患者はそのうちの約3割程度(注1)。ほとんどの人は痛みを我慢しているか、市販の湿布や痛み止めに頼っているのが現状のようです。病院では投薬をはじめ、さまざまな治療を行いますが、近年注目される治療法の1つに脊髄刺激療法があります。先日、医療機器メーカーのセント・ジュード・メディカル株式会社が開催した脊髄刺激療法についてのセミナーで登壇したNTT東日本関東病院 ペインクリニック科部長の安部洋一郎先生のお話を中心に詳しく解説します。

痛みは侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛、心因性疼痛に分類できる

私たちが感じる痛みは、体温、呼吸、心拍数、血圧に次ぐ「第5のバイタルサイン」と呼ばれ、体に何らかの異常があることを知らせる大切な役割を担っています。痛みは神経への損傷の有無などによって「侵害受容痛」、「神経障害性疼痛」、「心因性疼痛」の大きく3つに分けることができます。

侵害受容性疼痛痛は、体組織のダメージやそれに伴う炎症によって、末梢神経にある「侵害受容器」と呼ばれる部分が刺激されて起こる痛みです。やけど、打撲、骨折などによる痛みがその代表例で、たいていは炎症が治まると同時に痛みも消失します。神経障害性疼痛は、神経の損傷などで、末梢神経から大脳へ続く神経経路のどこかに障害が起こることによって発生する痛みです。代表例は帯状疱疹後の神経痛、糖尿病性神経障害に伴う痛み・しびれ、坐骨神経痛、脳卒中後の痛みなど。キリキリと刺すような痛みや灼けるような痛み、電気が走るような痛みのほか、知覚過敏や衣擦れのような軽い接触でも痛みを感じる「アロディニア」と呼ばれる症状が現れることもあります。心因性疼痛は、心理的・社会的要因によって生じる痛みです。

専門医の治療で“痛みの悪循環”を断ち切ることが重要

痛みの悪循環

痛みが3か月以上続く慢性痛では、単体ではなく、これら3つの痛みが複雑に混在していることが一般的です。また痛みは自律神経のうち、体の緊張を促す働きがある交感神経を刺激します。すると交感神経の作用で血管が収縮して血流が悪化。これが痛みを起こす物質(発痛物質)発生の引き金になります。通常は血流によって発痛物質が洗い流され、痛みが治まりますが、痛みが長引いて血流が悪い状態が続くと発痛物質が滞留して痛みが増幅し、それによって交感神経がさらに刺激されるという、“痛みの悪循環”が引き起こされます。そのため安部先生は、「慢性痛の治療では、ペインクリニックなどの専門医への早期受診で痛みの悪循環を断ち切ることが重要です」と指摘します。

安部先生によるとペインクリニックでの治療では、患者さんの痛みを構成する、侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛、心因性疼痛の割合を見極め、それぞれに適した治療を組み合わせて提供します。薬物治療と麻酔薬などで痛みの信号を伝える感覚神経の働きを抑える、神経ブロック療法が治療の2本柱ですが、それでも痛みの解消効果が不十分な場合は、心理療法や理学療法、患者さんの身体的負担が比較的少ない低侵襲治療などを追加します。

神経障害性疼痛に有効な脊髄刺激療法

脊髄刺激療法

「Proclaim(TM) Elite MRI」(画像提供:セント・ジュード・メディカル株式会社)

「脊髄刺激療法(SCS)」は低侵襲治療の一種です。神経障害性疼痛に有効な治療法として知られ、脊髄の硬膜外腔と呼ばれる空間に電極(リード)を、お腹またはお尻に小型の刺激装置をそれぞれ植込み、刺激装置から発生する微弱な電流をリードを介して脊髄に直接流すことで、異常な痛みの信号を脳に伝わりにくくします。刺激装置から出る電流の強さは、患者さん自身が体外からリモコン(患者用コントローラ)を使って調整します。刺激装置には充電式と非充電式があり、充電式の場合は植込み位置に体外から充電器を当てて1週間から3週間に一度の頻度で充電を行います。

SCS用の機器の植込みはトライアルと本植込みの2段階で実施されます。トライアルではリードのみを体内に植え込み、体外の刺激装置を患者さん自身が操作して、痛みの軽減効果や使い勝手を確認します。トライアルで痛みが半分以上軽減し、患者さんが納得した場合は本植込みに進みますが、効果が感じられなければリードを抜去し、元の状態に戻すことが可能です。体内に機器を植え込むことに抵抗を感じる人もいるでしょうが、リードを挿入するのは脊髄を保護している膜の外側ですから神経を傷つける心配はなく、植込み手術も比較的短期間で済みます。

SCSによる治療の目的は、痛みを半分以上軽減して日常生活を改善することです。痛みを完全に取り除くことはできませんが、ほかにも鎮痛剤の使用量を減らせるため副作用が抑えられる、日々変化する痛みに合わせて患者さん自身が刺激をコントロールできる、本植込み前のトライアルで患者さん自身が効果や使い勝手を確認できる―など数々のメリットがあります。

操作しやすく、MRI撮影も可能な新製品も登場

最近は患者用コントローラにApple社のiPod touchを採用し、スマートフォン感覚で刺激を調整できる新製品も登場。従来は不可能だった磁気共鳴画像(MRI)検査も、頭部と手足のみという条件つきながらも可能になり、使い勝手や日常生活における活動性が飛躍的に向上しつつあります。

SCSはすべての慢性痛患者さんに適用される治療法ではありませんが、重症化しないためには専門医への早期受診がなによりも重要です。冒頭でご紹介した慢性痛患者数のデータによると、慢性痛で通院中の患者のうち、痛みの専門医であるペインクリニックを受診している割合はわずか0.8%にとどまります。整形外科や一般内科の治療ではなかなか治まらない痛みを抱えている人は、一度、ペインクリニックの医師に相談してみることをお勧めします。

安部 洋一郎先生

安部 洋一郎先生
NTT東日本関東病院 ペインクリニック科 部長

1991年3月山形大学医学部卒業。2011年4月より現職。主に多汗症手術、脊髄神経刺激療法、神経ブロック全般、経皮的椎間板摘出術、椎体形成術を得意としている。2016年から日本ペインクリニック学会理事に。

注1
出典:服部政治、竹島直純、木村信康他:日本における慢性疼痛を保有する患者に関する大規模調査。ペインクリニック 25:1541-1551,2004

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