インタビュー 大島正史(おおしま・まさし)先生

[インタビュー] 2014年9月22日 [月]

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大島 正史 日本大学医学部附属板橋病院 整形外科外来医長
1970年東京都生まれ。96年日本大学医学部卒業。同年駿河台日本大学病院救命救急センター研修医。98年日本大学医学部附属板橋病院助手(整形外科学教室)。同病院専修医、川口市立医療センター整形外科医長などを経て、2008年日本大学医学部助教、脊椎脊髄外科指導医取得。09年日本大学医学部整形外科学系医局長。11年より現職。

救命救急センターの経験から治療の難しい脊髄専門医の道へ。患者さんとのコミュニケーションを常に治療の柱に置いています。

 大島先生の記憶に刻まれている悲しい出来事は、小学生のときにおこりました。仲がよかった2歳下のいとこが急な病気で亡くなってしまったのです。まだ、9歳でした。そのころからいつも頭の片隅に、「命を救える医者になりたい」との強い思いを抱き続けてきました。

 その思いはそのままに、大島先生の小学生、中学生時代は野球一筋。野球に打ち込んだ生活のなかでも初心を忘れず、見事、医学部に合格したのです。医師になり、専門を決める際、もちろん小児科も視野に入っていました。が、もともと大工作業が得意だった大島先生。手術における手先の器用さが求められる整形外科医を希望しました。

 しかし、最初から整形外科には入りませんでした。「患者さんの全身管理や、急変したときの初期治療くらいはしっかりできないと恥ずかしいかな」という思いから、自ら望んで救命救急センターで研修時代を過ごしたのです。

「そこで、脊髄(せきずい)損傷の患者さんの治療の難しさを実感しました」。整形外科に所属し、脊椎脊髄外科を専門にすることを決意したのは、このときの経験からといいます。

「患者さんの訴える症状や実際に医師が目で見た判断が、何より重要なのです」と大島先生。これだけ画像診断の技術が発達した現在に至ってもなお、ヘルニアを含め、脊椎脊髄の病状のすべては、画像だけではとらえきれません。「患者さんの神経の障害からおこる症状をしっかり診断することにより、約8割の確率で脊髄のどの場所に異常があるのかを推察することができます」

 その推察をもとに、X線やMRIなどの画像診断を行い、原因を突き止めるのですが、ときには、感染や悪性腫瘍(しゅよう)の場合もあり、的確な診断と早期治療が必要となるケースもあります。それを見逃さないことが重要といいます。

 普段の診療では、的確な診断と治療でこつこつと実績を積み重ねることを心がけています。

「薬でも、神経ブロックでも、『よくなった』と実感してもらえることが大切です。その実感があれば、患者さんも、きちんと薬をのみ、定期的に通院していただけます。すると治療効果も出やすくなります」

 つまり、効果を上げるには、患者さんの協力が不可欠です。そこで、大島先生は患者さんの満足が得られるよう、常にコミュニケーションを治療の柱に考えています。

「通常の腰椎椎間板ヘルニアの手術で合併症をおこす可能性は極めて低くなっていますが、ゼロではありません。その怖さを常にどこかにもち続け、それでいながら、患者さんにできるだけ精神的ストレスを与えないように治療を進めていく外科医であることを肝に銘じています」

 医療、特に手術は、患者さんと術者の信頼関係のうえに成り立っており、技術と責任感が必要不可欠となっています。そんななかでいかに安全に手術手技を後輩に指導していくかが、いまの大島先生の大きな課題になっているといいます。

 今も野球をという問いに、「なかなか自分の時間がとれず、時間があるときは、子どもの野球に行くくらいですね」との答え。現在、診療に、研究に、多忙ななかでホッとできるのが釣りのひとときだそうですが、それも年に2~3回程度です。

 そして、なんとご自身も「腰椎分離すべり症」という腰椎の病を抱えていると教えてくれました。「子どものころから野球に熱中して体を酷使したのも一因かも」との見立てですが、「椎骨がけっこうすべってきて、検査するのが怖いんですよ」とのひとことも。なるほど、患者さんの気持ちがよくわかるはずです。

「腰椎椎間板ヘルニアは患者さんの数が多いのですが、保存療法でよくなることが多い病気です。医師にかかるときは、質問にきちんと答えてくれて、手術と保存療法の両方をバランスよく話してくれる専門医を選んでください」

(名医が語る最新・最良の治療 腰部脊柱管狭窄症・腰椎椎間板ヘルニア 平成25年2月26日初版発行)

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