顕微鏡下椎間板切除術の治療の進め方は?【腰椎椎間板ヘルニア】

[顕微鏡下椎間板切除術] 2014年10月14日 [火]

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顕微鏡下椎間板切除術(2)

全身麻酔、うつぶせで手術を受けます。骨を削り、神経の癒着を慎重にはがして神経を圧迫しているヘルニアを切除します。手術時間は1時間~1時間30分です。

筋肉をよけ、骨に到達したらレトラクターを入れる

●手術室のセッティング
図3手術室のセッティング

 手術が決まったら、普通、予定日の前日に入院となります。事前のさまざまな検査を受け、前夜9時から絶食し、手術日を迎えます。

 顕微鏡下でも、腰椎椎間板ヘルニアの手術は全身麻酔で行います。患者さんは腹部を圧迫しないしくみの手術台に、うつぶせになります。

 事前に画像検査を行って特定した、切除するヘルニアのある椎間の位置に合わせ、腰部の皮膚を背中の中央から1cm離して、2.5~3cm切開します。皮膚に続いて、筋膜という筋肉表面を覆う膜を切ると、背中の筋肉が現れます。筋肉は切ったり骨からはがしたりせずに、筒状のダイレーターという器具で筋肉と筋肉の間を分けるようにして、椎弓(ついきゅう)の骨に到達します。

 骨の上に出たところで、レトラクターを差し込み、視野が動かないように固定します。この筒を通して患部を見て手術を行うので、筒内にはみ出した組織は取り除きます。

 ここで顕微鏡をレトラクターの真上の位置にセットし、これからあとはすべて顕微鏡下で行います。

骨が神経を圧迫している場合は骨を削って神経を開放

●手術の準備から開始
図4手術の準備から開始

 ヘルニアは椎弓内部を通る硬膜(内部に馬尾)や神経根の内側にあるため、まず、椎弓を削って内部に入らなければなりません。ヘルニアに達するための、必要最小限の骨を削り、窓をあけます。骨を削る器具はノミや、先端の小さなボールが回転するドリルです。ボールの回転で骨を削るには、ある程度の熟練が必要ですが、神経を傷つけることがより少ないため、私はこのドリルを使っています。

 神経の圧迫がみられる場合、ヘルニアと骨の間に神経がはさまって圧迫されていることがあります。さらには、もともと神経が骨の近くを通っている人もいるため、ヘルニアを切除しただけでは、神経の圧迫が十分にとれない場合もあります。このようなケースでは神経を圧迫している骨を削ります。

 神経と骨が近過ぎるときは、神経を傷つけないように十分配慮しながら器具で神経をよけて、骨を削っていく必要があります。

神経を慎重によけながらヘルニアを切除していく

●顕微鏡下でヘルニアを切除(手術)
図5顕微鏡下でヘルニアを切除(手術)

 骨の一部を削って窓をあけると、黄色靱帯や神経が見えてきます。黄色靱帯は神経の圧迫の原因となるので取り除きます。次に、神経を慎重によけながら、ヘルニアを切除していきます。ヘルニアの手術のなかでここが、神経を傷つけるおそれのある最も危険なところです。

 なかには、神経が押されて平べったくなり、飛び出したヘルニアを覆うようになっているケースもあります。また、ヘルニアは膜に包まれた状態で飛び出しているものもあるため、神経との区別が難しい場合もあります。細部を確認できる顕微鏡下の利点を生かし、慎重に確認しながら、ヘルニアを切除していきます。

 神経がヘルニアと癒着(くっついていること)しているケースもあり、このような場合は、粘膜剥離(はくり)子という器具を2本使って、神経を左右に少しずつよけ、癒着をはがします。神経をよける幅は、一気にはがす場合でも約3mm、慎重を期して少しずつよけるなら0.5mm程度です。まさに顕微鏡で拡大するからこそ可能な、神経を傷つけない、微細な処置といえます。

 通常、内視鏡を用いる手術では、手術器具は2本で行いますが、われわれは3本を用いての手術が可能です。術者が粘膜剥離子を2本使い、助手が血液を吸い取る吸引管を用いるというように、3本使えることで、手技が容易になります。

 ヘルニアの切除が終わったら、神経の圧迫が十分にとれているか、ヘルニアの取り残しがないかを確認します。手術した部位を十分に洗浄し、レトラクターを抜いて、内部に血液がたまらないように抜き取るためのドレーンと呼ばれる細い管を入れます。ドレーンの一端を体外に出して、筋膜、皮膚を縫い合わせ、手術を終わります。

手術時間は1時間~1時間半です。

入院は術後1週間~10日。抜糸が済めば退院となる

●入院から退院まで
図6
入院
手術前日
・手術前検査
・手術内容の説明
・手術前日は21時以降飲食禁止
手術当日 ・血栓予防の弾性ストッキング着用
・手術室に入る。麻酔開始
・手術
・排尿のための管を入れる
・ベッド上安静
・痛みが強ければ痛み止め
・コルセット着用
術後1日目 ・飲水、食事可
・歩行器での歩行、または車いすでの移動可
・排尿のための管を抜く
・ドレーンを抜く(1~2日目)
術後2~6日目 ・洗髪、清拭(せいしき)、着替えなどの日常生活
・歩行
術後7~10日目 ・抜糸、シャワー可
・弾性ストッキングをとる
退院 ・抜糸後退院
・次回外来予約
・2カ月程度コルセット着用

 手術当日は、ベッド上で安静に過ごします。ベッドを起こすことはできません。医師の許可が出れば、コルセットを着用します。排尿は尿道に入れた管で行い、排便はベッド上になります。

 術後1日目は朝から水分をとることができ、昼から通常の食事ができます。コルセット着用のうえ、ベッドを起こすことができます。ヘルニア手術は一般に傷が小さいので回復も早く、おおむね、術後1日目に歩行器で歩行、無理な場合には車いすでの移動ができるようになります。尿の管もこのころに抜きます。ドレーンは、傷口から血液などが出ていないことを確認して、術後1日目か2日目に抜きます。

●顕微鏡下椎間板切除術の基本情報
図7
全身麻酔
手術時間 ―――――― 1時間~1時間30分
入院期間 ―――――― 9~12日間
費用―手術費用約7万円、入院、検査等を含め約10万円(健康保険自己負担3割の場合。ただし、高額療養費制度の対象のため、実際の自己負担額はさらに低い)

*費用は2013年1月現在のもの。今後変更の可能性がある。

(東京医科歯科大学医学部附属病院の場合)

 縫い合わせたところの抜糸は、術後1週間~10日目になり、多くの場合、抜糸が済めば退院になります。回復の早い患者さん、仕事を長期に休めない患者さんなどでは、5日ほどで退院して、その後、外来で抜糸するというケースもあります。

 手術にかかる費用は、顕微鏡下で行ったことによる特別な料金はなく、通常のラブ法と同じく手技料だけで23万5,200円。これに検査代や入院のための費用がかかり、健康保険自己負担3割なら合計約10万円となります。

正確な診断を目指す装置を開発

 安全な手術には正確な診断が大前提ですが、脊椎(せきつい)を通る神経は、MRIでは圧迫されているように見えても、機能は損なわれていないというケースが珍しくありません。
 それなら神経の状態を正確に測れる装置を作ろうと、川端先生は「脊髄磁界測定装置」を開発しました。神経に電気を流して、神経のどの部分で活動が低下しているかを、皮膚表面から測定する装置です。患者さんはベッド上にあお向けになり、頸部(けいぶ)にセンサーを当てて、ひじの皮膚上から末梢(まっしょう)神経に電気を流すだけ。検査時間は4分程度です。従来行われていた、神経1mm手前の硬膜外に電極を入れる検査に比べ、患者さんの負担は格段に少なく、簡便、かつ安全な検査法となります。
 2012年11月時点でほぼ完成という段階。今のところ対象は頸椎(けいつい)部ですが、さらに機能を高める試みも行われています。現在、広く医療現場への普及のために、製品化を目指し、臨床研究を積み重ねているところです。

川端 茂徳 東京医科歯科大学 整形外科講師
1968年神奈川県生まれ。93年東京医科歯科大学医学部卒業、同大医学部整形外科に入局。河北総合病院、九段坂病院、緑成会病院等を経て、97年東京医科歯科大学整形外科医員。98~2002年東京医科歯科大学大学院医学系研究科在籍。02年同大整形外科医員、03年同大整形外科助手。03年から約1年間ドイツ・マグデブルグ大学留学。04年東京医科歯科大学整形外科助教。11年より現職。

(名医が語る最新・最良の治療 腰部脊柱管狭窄症・腰椎椎間板ヘルニア 平成25年2月26日初版発行)

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