関節リウマチとはどんな病気か 前編

[関節リウマチを知る] 2015年3月10日 [火]

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原因不明の「全身性自己免疫疾患」の一つ

 関節リウマチは、関節に炎症がおこり、腫れや痛みが生じる病気です。早期に発見し、適切な治療をすれば「寛解(かんかい)」状態に導くことも可能ですが、治療をせずに放っておくと、炎症が長引き、軟骨や骨が破壊され、関節が変形してしまいます。指や手首の曲げ伸ばしが困難になり、歩行などの基本的な動作が損なわれてしまうこともあります。

 関節の炎症は、免疫の働きに異常がおこるために発生します。免疫とは、細菌など病原体が体内に入ってきたときにこれら異物を攻撃する、誰にも備わっているからだの防御反応です。ところが、何かをきっかけに、本来は異物ではない自分の正常な細胞や組織を異物と認識して、攻撃してしまうことがおこります。このような仕組みでおこる病気は「自己免疫疾患」と呼ばれ、これには特定の臓器に症状が現れる「臓器特異性自己免疫疾患」と全身に免疫異常がおこる「全身性自己免疫疾患」があります。

 関節リウマチの初期症状では、骨と骨をつなぐ関節を包む「滑膜」という組織を、免疫の働きで攻撃されるのが特徴です。しかし、症状は関節炎だけでなく発熱や食欲不振、倦怠感など全身に及び、時に炎症が肺や血管など全身に広がることもあるため、関節リウマチは全身性自己免疫疾患に分類されます。近年は、免疫機能がどのような仕組みで滑膜を攻撃するのかはわかってきました。しかし、なぜ免疫機能が滑膜を攻撃するのかという、根本的な原因についてはいまだに不明です。

自らを攻撃する自己免疫疾患
自らを攻撃する自己免疫疾患

関節リウマチのおこる仕組み

 関節で軟骨に覆われた骨は「関節包」という袋状の組織に包まれ、少し離れて向かい合っています。関節包の内側は「関節液」で満たされており、「関節液」は関節包の内側にある「滑膜」から分泌されます。この関節液が潤滑油の働きをしてくれるおかげで、関節はスムーズな屈伸が可能なのです。

 関節リウマチにかかると、まず免疫細胞(体外からの異物を攻撃する細胞)が滑膜の表面に集まります。そして、免疫細胞が滑膜を刺激し、炎症をおこす物質を作り出します。そして、炎症によって滑膜の表面がザラザラになる「びらん」の状態に至ると、外側からみてもわかるほど関節全体が腫れて痛みも生じてきます。

 骨にも変化がおこります。正常な骨では、古い骨は常に新しい骨に作り替えられています。古くなった骨を壊す働きをする「破骨細胞」は、関節リウマチが進行すると、より活発に活動するようになり、まだ作り替える必要のない骨まで壊してしまいます。骨そのものが破壊されてしまうだけでなく骨を覆っている軟骨も破壊されて薄くなります。関節内部では滑膜細胞が増殖し、滑膜が徐々に厚くなり、軟骨と軟骨とのすき間がどんどん少なくなっていきます。この段階になると、滑膜はさらに厚くなり、軟骨や骨に食い込むようになり、関節は変形して固まり、動きが制限されてしまいます。

 従来の治療では、抗炎症薬で炎症をおこりにくくしたり、鎮痛剤で痛みを抑えたりといった対症的療法が中心でした。新しい治療法では、早期に関節リウマチと診断された場合、免疫細胞と滑膜の刺激をシャットアウトする薬を早めに使い、骨が破壊される前に病気の進行を食い止めることが可能です。

関節包の滑膜に炎症がおこる
関節包の滑膜に炎症がおこる

症状を悪化させるのはサイトカイン

 からだが正常に働いているとき、細胞はそれぞれ必要なタイミングで増えたり、減ったりして入れ替わっています。こうして、からだの恒常性は保たれていますが、細胞の働きが活性化したり、あるいは鈍化、停止したりするメカニズムは、周囲の細胞同士が綿密にコミュニケーションをとり合うことで制御されています。例えば、かぜのウイルスが体内に入ってくると、鼻水や痰が出て、ウイルスが内部に入り込まないように防御する反応、あるいは、熱によってウイルスを死滅させるために体温を上げるといった反応がおこります。こうしたとき、細胞同士が情報をやりとりするために使う物質が「サイトカイン」です。サイトカインは細胞から分泌されるたんぱく質の一種で、体内に数百種類が存在します。

 関節リウマチの滑膜に集まった免疫細胞の一つ、「マクロファージ」が活性化するとき、さまざまなサイトカインを放出します。とくにインターロイキン-1(IL-1)、インターロイキン-6(IL-6)、TNF-αなどのサイトカインは、炎症反応を促す働きをするため、“炎症性サイトカイン”と呼ばれています。サイトカインには免疫細胞を呼び寄せる、いわば「伝令」の役割があります。体内に外敵=病原菌やウイルスなどが入ってきたときに攻撃してもらうためです。

 ところが、関節リウマチでは、免疫異常により炎症性サイトカインが過剰になる結果、免疫細胞を過剰に呼び集め、サイトカインとそれら免疫細胞が合体して、滑膜を攻撃し、炎症を激化させるのです。関節内で過剰になったサイトカインが、まるで嵐のように吹き荒れるとき、関節破壊がおこります。このようなサイトカインの働きを抑える薬を、「生物学的製剤」といいます。

炎症反応を激化させるサイトカイン
炎症反応を激化させるサイトカイン

監修:林 泰史 東京都リハビリテーション病院院長
1939年生まれ。1964年京都府立医科大学卒業後、東京大学整形外科に入局。東京都衛生局技監(東京都精神医学研究所所長兼任)、東京都老人医療センター院長、東京都老人総合研究所所長などを経て2006年より現職。
著書は「老いない技術」(祥伝社)、「骨の健康学」(岩波書店)など多数。

(スーパー図解 関節リウマチ 平成25年9月26日初版発行)

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