背骨の老化が腰椎の異常の原因に

[診断と治療法の決定] 2014年5月20日 [火]

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診断と治療法の決定(3)

老化は椎間板の変性から始まり、やがて背骨が変形。
腰部の神経への圧迫により、症状が現れる。

背骨の老化によって腰や脚に症状が現れる

 腰部脊柱管狭窄症腰椎椎間板ヘルニアをはじめ、腰椎変性すべり症腰椎変性側弯症などになると、腰痛や脚の痛み・しびれといった症状が現れてきます。こうした症状が生じるのは、大まかにいうと、背骨の老化が大きな要因となっています。加齢に伴い背骨の性質が変わったり(変性)、背骨の形が変わったり(変形)することで、背骨を通る神経を圧迫・刺激して、脚のしびれなどの共通の症状が引きおこされるわけです。

 背骨のなかで、最も老化の影響が現れやすいのは椎間板といわれています。椎間板は、背骨を形成する椎骨と椎骨の間でクッションのような役割を果たしている組織で、軟骨でできています。さまざまな姿勢や動作によって、上下左右いろいろな方向から背骨にかかる衝撃を椎間板によって吸収することで、私たちの体はバランスよく背骨に支えられています。

椎間板の水分が失われ背骨が不安定に

 若々しい椎間板はたくさん水分を含み、とても弾力性に富んでいます。生まれたての赤ちゃんから18歳ころまで、椎間板が含む水分量は80~90%弱との報告があり、20歳代後半からは徐々に水分が失われていき、椎間板の性質が変化していくと考えられています。水分の喪失により、椎間板のみずみずしさや弾力も失われてしまいます。

 それによって、本来の椎間板の厚みを保つことができなくなって、つぶれてしまうために、背骨のバランスが崩れ、安定性が悪くなっていきます。ヘルニアは、比較的若い世代におこるといわれていますが、椎間板に注目すると、すでに老化が現れはじめているともいえます。

性質の変化とともに背骨の形の変化もおこってくる

●椎間板の変性と背骨の変形
図10

 こうした椎間板の変性をきっかけに、椎間関節に負担がかかったり、背骨にずれがおこったり、バランスを補正しようとして棘のような骨(骨棘)が生じたりすることで、背骨の形にも変形がおこってきて、腰の痛みや脚のしびれにつながる状態がつくり上げられていきます。

 どの部分に大きな負担がかかり、その結果、どの部分に大きな変化が現れるかは人それぞれで、その状態によって、腰部脊柱管狭窄症、腰椎椎間板ヘルニア、腰椎変性すべり症、腰椎変性側弯症などがおこることになります。たとえば、椎間板の周囲に亀裂が入り、中味がはみ出してしまえば椎間板ヘルニア、神経の通路である脊柱管が狭くなってしまうと脊柱管狭窄という状態になります。それらの状態は単独ではなく、いくつか重なって生じていることも少なくありません。

 このように、現れ方はさまざまであっても、背骨に生じている変化は共通しており、症状は、馬尾や神経根など下半身をつかさどる神経への圧迫や刺激によっておこるものですから、治療の考え方の基本も共通しています。いずれも保存療法から始め、必要に応じて手術を検討します。手術は、神経にかかっている圧迫を取り除く除圧術、不安定な背骨を固定する固定術に大きく分かれ、これらを組み合わせて行うこともあります。

高橋 寛 東邦大学医療センター大森病院整形外科教授
1964年東京生まれ。88年東邦大学医学部卒業。同大医学部付属大森病院整形外科等を経て、98年から1年間、米国カリフォルニア大学(UCSF)留学。2004年東邦大学医療センター大森病院整形外科講師、09年同准教授、11年同教授、脊椎脊髄病診療センター長、12年任用換えにより東邦大学医学部整形外科教授。

(名医が語る最新・最良の治療 腰部脊柱管狭窄症・腰椎椎間板ヘルニア 平成25年2月26日初版発行)

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