[選択肢が拡大する脳卒中予防の現在] 2014/05/26[月]

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 昭和26年から昭和55年まで日本の死因のトップだった脳卒中(厚生労働省「人口動態統計」より)は、最新のデータでは死因の第4位となったものの、入院患者数は約172万人と、死因トップのがんの入院患者数約151万人(厚生労働省「平成23年患者調査」より)を大きく上回っています。脳梗塞には、動脈硬化を原因としたものと、心房細動を原因としたものに大別されます。特に、心房細動が原因となる脳梗塞は重症となることが多いことが分かっています。脳梗塞のリスクを減らすためには、心房細動のリスクを減らす必要があります。心房細動の治療ガイドラインでは、脳梗塞発症リスクの高い非弁膜症性心房細動患者に対して、抗凝固療法が推奨されています。この抗凝固療法を安心して続けていくためのアドバイスを公益財団法人 心臓血管研究所 所長の山下武志先生にうかがいました。

脳卒中とは?
脳卒中とは?

心房細動は重症化しやすい脳梗塞の原因となる

山下武志先生公益財団法人 心臓血管研究所
所長 山下武志先生

 「患者さんのみならず、多くの方にとって“脳卒中は怖い病気だ”ということに疑念を挟む余地は無いと思います。ところが、残念なことに、患者さんの中には一定期間発症しなかったことで“もう大丈夫だろう”と、自己判断し、服薬を中止してしまう方がいます。これは大変に危険なことです」と山下先生。「健康日本21推進フォーラム」の調査によると、ワルファリンを処方された患者さんの4.3%、実に3万3000人の患者さんが1年以内に服薬を中止してしまっています。その背景の1つとして考えられるのが、脳卒中が何の前触れもなく、突然発症することがあります。「逆の見方をすれば、お薬でリスクを軽減できている状態は普段通りの生活が過ごせているので、“現在、治療中であること”の認識が薄れてしまうのです」(山下先生)。脳卒中は、発症してしまうと、たとえ命が助かっても、麻痺や言葉障害などが後遺症として出てしまうことが多く、予防の意識を欠かさないことが重要です。「心房細動は脳梗塞の原因となり、そしてその心房細動のリスクを減らすには抗凝固薬を飲み続けることが重要であることを今一度しっかりと認識していただきたいですね」(山下先生)。

出血のリスクと脳梗塞リスクを正しく知る

 「患者さんが抗凝固薬の服用を中断してしまうもう1つの要因に、出血が続いたり、内出血(あざ)ができた際にびっくりしてしまって、服用を中断してしまうことがあります。服薬を中止してしまうと、脳梗塞のリスクが大きく高まってしまいます。“出血のリスク”と“脳梗塞のリスク”を正しく知ることが重要です」と山下先生。抗凝固薬は文字通り血を固まりにくくするため、血が止まるまで通常より時間がかかります。抗凝固療法中は、髭剃りや歯磨きの際に出血が続いてしまったり、どこかにぶつけた際に手や足に内出血(あざ)ができてしまうケースがあります。「出血が続いた場合は、出血した部位をしっかりと押さえ続けてください。もちろん、血が止まったとしても、すぐに主治医に相談をしてください」(山下先生)。

心房細動を原因とする脳梗塞発症の流れ
心房細動の発生
心臓が通常の拡張⇔収縮のリズムではなく、小刻みに震えるような動きを見せる
血の塊りの発生
血の流れが悪くなり、心臓内に血液の塊りが発生する
脳動脈への移動
血の塊りが心臓内から大動脈に移動。一部が脳に移動し、脳血管を塞ぐ
脳梗塞の発症

主治医とのコミュニケーションを密接に

 抗凝固療法を正しく行い、脳梗塞を予防するためには、主治医だけでなく、受診する全ての医療機関の医師や薬剤師との密接なコミュニケーションも重要です。「別の医療機関で手術や内視鏡検査、または、処方されたお薬に変更があった場合は必ず事前に主治医に相談をしていただくとともに、別の医療機関の医師や薬剤師にも“抗凝固薬を飲んでいること”を必ず伝えてください。忘れがちなのが歯科で抜歯するとき。“歯だから関係ない”と思わずに、必ず伝えてください」(山下先生)。
脳梗塞の予防は、生活習慣の改善に加えて、抗凝固薬をしっかりと飲み続けることが重要です。
 「以前の抗凝固薬は“納豆が食べられない”“青汁が飲めない”“定期的な血液検査が必要”など、患者さんが我慢しなければならないいくつかの事柄がありましたが、最近ではこれらの“我慢すること”が少ない新規経口抗凝固薬も登場。患者さんの負担が少なくなるだけでなく、頭蓋内大出血のリスクが減るなど医学的なメリットもあります。抗凝固薬を飲み続けることで、健康寿命を延伸できる可能性は高まります。今回お伝えした3つのことを、いま一度確認いただき、お薬と上手に付き合っていただければと思います」(山下先生)。

山下武志(やました・たけし)先生 公益財団法人 心臓血管研究所 所長

山下武志先生

昭和61年東京大学卒業。専門分野は不整脈、心臓電気生理学。日本循環器学会(循環器専門医、関東甲信越地方会評議員)、日本心臓病学会(特別正会員、評議員、臨床試験あり方検討委員会委員)、日本内科学会(認定内科医、指導医)、日本心電学会(理事)、日本不整脈学会(理事)、日本不整脈学会・日本心電学会認定(不整脈専門医、不整脈専門医認定委員会委員長)
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