腰椎椎間板ヘルニアの特徴

[診断と治療法の決定] 2014年9月01日 [月]

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診断と治療法の決定(1)
診断が確定したら症状に配慮しながら治療方針を検討する

椎間板内の髄核が飛び出す。比較的若い世代に多くおこる

 ヘルニアはラテン語で「飛び出た」という意味を表します。腰椎椎間板(ようついついかんばん)ヘルニアとは、椎間板内の髄核(ずいかく)という組織が背中側に飛び出し、近くにある神経を圧迫する病気です。神経が圧迫を受け、刺激されることで、周囲に炎症がおこり、脚の痛みやしびれ、腰痛などがみられます。
 誤解している人も多いのですが、腰椎椎間板ヘルニア(以下ヘルニア)は高齢者の病気というより、比較的若い人におこる病気です。10歳代でも患者さんがみられ、主に20~40歳代に多く、50歳代後半から患者さんは減っていきます。髄核がみずみずしい状態であればあるほど、内部の圧力が高く、周囲の組織(線維輪)を突き破って飛び出す力が大きいため、若い人にはヘルニアがおこりやすいのです。加齢に伴って椎間板の弾力は失われていくので、高齢では患者さんが徐々に減っていくことになります。

腰椎椎間板ヘルニアの特徴

椎間板内の髄核という組織が飛び出して神経を刺激、炎症をおこすことで脚のしびれや痛みが現れます。手術なしで自然に消失するタイプもあります。

椎間板はあんパンに似た構造。本来は柔軟で弾力がある

●腰椎(ようつい)の構造
図1腰椎は5個の椎骨からなり、その下に仙骨、尾骨がある。椎骨の腹側を椎体、背中側を椎弓といい、椎体と椎体の間に椎間板がある。腰椎(ようつい)の構造

 ここで、椎間板の構造を少し詳しくみてみましょう。背骨は椎骨(ついこつ)という骨が連なってできています(参照)。首から胸、腰に沿って、上から頸椎(けいつい)(7個)、胸椎(きょうつい)(12個)、腰椎(5個)と続き、その下に仙骨(せんこつ)、尾骨(びこつ)がつながり、背骨を形成しています。

 椎間板とは、これら背骨ひとつひとつの間、つまりそれぞれの椎骨(腰椎部分の構造については図1参照)の間にある軟骨です。椎体と椎体をしっかりと接着させてつなげ、同時に、圧力を分散させるクッションの役割を果たすとても重要な組織です。

 椎間板は平べったい円柱の一部を少しへこませたような形をしています。その前後には椎骨どうしをつなぐ靱帯(じんたい)があり、腹側が前縦(ぜんじゅう)靱帯、背中側が後縦(こうじゅう)靱帯です。

主観を交えず患者さんの話を聞くのが治療の基本

 椎間板は、あんパンにたとえられることが多いのですが、真ん中の部分とその周辺で、組織が違っています。中央部は粘り気のあるゼラチン状の髄核と呼ばれる組織であり、あんパンのあんこに当たります。一方、あんパンの皮に当たるのが、線維輪という組織で、同心円状の層をなし、この部分は弾性に富むコラーゲン線維でできています。

 椎間板は、本来はゴムのように柔軟で弾力があります。さまざまな姿勢や動作によって、その形を自由自在に変えることができ、背骨にかかる圧力や衝撃を分散・吸収し、負担を軽減させる働きをしています。私たちが、前にかがんだり、うしろに反らせたり、体を左右に曲げたりねじったりと、いろいろな姿勢をとることができるのは、椎間板があるおかげです。

なぜおこるかの詳細は不明。体質と環境に要因が

●椎間板の構造
図2椎間板は背骨の椎骨と椎骨の間にあってクッションの役割を果たしている。中央部は粘り気のあるゼラチン状の髄核、周囲はコラーゲン線維からなる線維輪。椎間板の構造

 ヘルニアは、なんらかの原因であんパンのあんこが飛び出した状態と考えれば、わかりやすいかもしれません。

 線維輪に弱い部分があると、そこを目がけて、髄核がふくらみ、その部分を押し出すようにしてヘルニアがおこります。これまでの患者さんの分析から、なりやすい職業や姿勢が挙げられていますが、そもそも、なぜ線維輪に弱い部分が生じてしまうのかなど、その詳細は明らかになっていません。

 われわれ専門家も実際にヘルニアがおこってしまったあとの椎間板の観察はできるのですが、椎間板の生理はすべて解明されているわけではなく、今も世界中の研究者が検証を進めているところです。

 現在までにわかっていることは、おそらくヘルニアになりやすい体質の人がいること、それに加えて職業やスポーツなど生活の習慣や、環境の積み重ねにより、一定の動作や姿勢がくり返されることで、身体的なストレスが積み重なり、発病に至るのではないかということです。椎間板にかかる圧力は、姿勢や動作によって異なり、腰を前屈させた姿勢や荷物を持つ動作はその圧力が高まります(参照)。

圧迫だけでは痛みは出ない。症状は炎症によって生ずる

●圧迫された神経周囲の炎症で症状がおこる
図3神経の圧迫だけで痛みやしびれの症状が出るのではなく、神経への刺激による周囲の炎症が症状を引きおこす。圧迫された神経周囲の炎症で症状がおこる

 ヘルニアに対しては、発症する年齢のほかに、もう一つ、よくみられる誤解があります。飛び出した髄核が神経を圧迫し、症状が出ると思っている人が多いかもしれませんが、圧迫だけで症状が出るわけではないのです。

 確かに、髄核が線維輪を破った瞬間に、一時的な腰痛を感じることがありますが、それだけでは持続的な症状を引きおこすことはありません。圧迫によって神経(神経根や馬尾、図3参照)に刺激が加わり、周囲に炎症がおこることによって、脚のしびれや痛みといった、患者さんを大きく悩ませる症状が生じてくるのです。実際、検査画像で見るとヘルニアが神経を圧迫しているにもかかわらず、症状がないというケースがみられます。

 つまり、圧迫=症状ではなく、炎症があるかないかが、ヘルニアの治療にとっては大切なポイントになります。安静を保ち、薬によって炎症を抑えるなどの保存療法を3カ月程度続け、炎症が鎮まると、約8~9割の患者さんがヘルニアを除去しなくても、症状がおさまり、大きな支障を感じることなく日常生活を送れるようになります。

 ただし、膀胱(ぼうこう)直腸障害といって排尿や排便のコントロールがうまくいかなかったり、肛門(こうもん)や会陰部(えいんぶ)にしびれや灼熱感(しゃくねつかん)が出たりしている場合や、脚や足首に力が入らない場合(麻痺)があり、そうした際には緊急に手術を行う必要があります。そのまま、ほうっておくと神経の損傷が元に戻らなくなる危険があるため、その見極めは重要です。

 腰椎椎間板ヘルニアがおこりやすい椎間板の位置は、上半身の重さのほとんどを支えている第4腰椎と第5腰椎の間、第5腰椎と仙骨の間の2カ所だといわれています(図1参照)。

 脊柱管(せきちゅうかん)を通っている脊髄(せきずい)神経は左右に分かれ、腰椎からお尻(しり)、脚を通って足先までつながっていて、それぞれ腰椎の位置ごとに担当領域をもっています(参照)。ヘルニアによって生じる脚の痛みやしびれは、大きく、脚の裏側に痛みが走る坐骨(ざこつ)神経痛と、表側に出る大だいたい腿神経痛に分かれ、さらに足の親指側や小指側と症状が出る場所が分かれますが、それは、ヘルニアがおこった位置によって決まってきます。

四つのタイプがあるヘルニア。遊離脱出型は消えやすい

ヘルニアは、飛び出し方の程度によって、次の四つのタイプに分類されています。

●腰椎椎間板ヘルニアの四つのタイプ
図4腰椎椎間板ヘルニアの四つのタイプ

●膨隆(ぼうりゅう)型
 髄核がふくらんで線維輪を押し、線維輪が大部分裂けてはいるものの、外側まで亀裂は入らず、髄核は内部にとどまっている

●脱出型
 線維輪が完全に裂け、髄核が椎間板の外に飛び出しているが、後縦靱帯は破れていない

●穿破(せんぱ)脱出型
 後縦靱帯も破れてしまい、髄核が大きく飛び出している

●遊離脱出型
 飛び出した髄核の一部が分離し、本来の位置から完全に移動している

 これらのうちで、遊離脱出型は(それも大きなものほど)、自然に小さくなることが知られています。このタイプは、飛び出した髄核が本来の位置から完全に離れたところに移動しているため、私たちの体に備わっている免疫機構が異物としてとらえやすく、異物を排除する働きをもつ免疫細胞が感知し、消化してしまうからだと考えられています。ヘルニアが小さくなるまでの期間は、およそ3~6カ月です。

排尿の異常は危険信号。手術のタイミングを逃さない

 前にも触れましたが、遊離脱出型のように自然に小さくなるものを含め、炎症がおさまることで、ヘルニアによる圧迫を取り除かなくても症状がとれていく患者さんは少なくありません。

 ただし、緊急に手術をしなければ、排尿障害や排便障害が残ってしまったり、脚の筋力の低下に悩まされたりする場合もあるので、次のような症状が気になる場合には、ぜひ、整形外科の専門医を受診するようにしましょう。

(1)どのような姿勢をとっても痛みがとれない
(2)腰から脚にかけてしびれがある
(3)痛みやしびれがだんだん強くなってきた
(4)症状が出てから2~3日たっても激しい痛みがとれない
(5)脚が動かせない
(6)脚や足首に力が入らない
(7)尿が出にくい、あるいはもれる(排尿障害)
(8)頻繁に便意をもよおす(排便障害)

(5)~(8)に一つでも当てはまったら、緊急手術が必要なので特に注意してください。

渡辺 雅彦 東海大学医学部外科学系整形外科学教授
1962年神奈川県生まれ。87年慶應義塾大学医学部卒業。伊勢原協同病院、済生会中央病院、静岡赤十字病院副部長などを経て、98年慶應義塾大学医学部整形外科助手。2000年米国コネチカット州立大学Physiology & Neurobiology postdoctoral research fellowとして留学、脊髄損傷の病態と再生について研究。帰国後、02年10月より東海大学医学部外科学系整形外科学講師、06年同助教授、07年同准教授を経て、11年より現職。

(名医が語る最新・最良の治療 腰部脊柱管狭窄症・腰椎椎間板ヘルニア 平成25年2月26日初版発行)

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