単なる五十肩と思っていると危険。無自覚のまま進行してしまう疾患が隠れていることも
[北海道・東北] 2013年7月05日 [金]
東北大学病院
整形外科科長・井樋栄二先生
東北大学医学部卒業。米国ミネソタ州メイヨークリニック上級研究員、秋田大学医学部整形外科教授などを経て現職。東北大学大学院医学系研究科外科病態学講座整形外科学分野教授。日本整形外科学会専門医、日本整形外科学会スポーツ医、日本整形外科学会リウマチ医、日本体育協会公認スポーツドクター。国際肩肘関節外科学会理事、国際整形外科学会日本代表、日本整形外科学会理事、日本肩関節学会理事長。
「五十肩は放っておいたら治る」は間違い
東北大学病院は、東北の中核となる高度医療機能総合病院です。中でも井樋先生は、肩関節外科を担当。腱板断裂やスポーツ障害、五十肩のエキスパートとして、診断・治療にあたっています。
「『五十肩』は江戸時代には『長命病』とも呼ばれており、長生きした人だけがかかる病気と言われてきました。最近では、肩が凍ったように動きが悪くなることから『凍結肩』という病名が使われるようになっています。肩が痛い、腕が上がらないなどの症状が起きますが、しばらくすると痛みがなくなるために、放っておく人も少なくありません」
痛みがなくても腱板断裂が起こっている可能性も
しかし、井樋先生が秋田県で住民検診を行ったところ、50代で10%、60代で16%、70代で25%、80代で33%の人が腱板断裂を起こしていることがわかったそうです。
「腱板断裂とは、肩関節の骨と筋肉をつないでいる腱が裂けたり切れたりすることを言います。そのうち痛みを感じる人は3分の1、残りの3分の2は痛みを感じないということもわかりました。つまり多くの人が無症状で、患者さん自身が腱板断裂に気がついていないことが多いのです」
自己判断せず、まずは病院で診断を
腱板断裂の原因は、加齢による腱の脆弱化であることが多いのですが、若い人でもスポーツや肉体労働による過度の負荷が原因で断裂することがあります。最近、たばこも断裂に関連することが分かってきました。
「ニコチンが筋や腱の弾性を失くしてしまうことがわかっています。普段運動をあまりしないようなデスクワーク中心の人で、非喫煙者であれば痛みをとることを中心とした保存的治療を行いますが、肉体労働者やスポーツ選手で、断裂によって日常生活に支障をきたす可能性が高い患者さんには手術を行います。しかし、腱板断裂に気がつかず、長い期間放置していたために、病院に来た時点では断裂が大きくなっている方もいます。断裂が3センチメートルを超えると手術を行っても治りが悪いのです。『あと10年早く治療や手術を行っていれば…』と思う方も少なくありません。だからこそ『五十肩だから放っておいてもそのうち治るだろう』と、自己判断するのは危険です。生活の質を下げずに健康で暮らしていくためにも、痛みや違和感があったらまずは病院で診察を受けることが重要です」
東北大学病院
公式サイト:http://www.hosp.tohoku.ac.jp/