変形性膝関節症についてのQ&A集(聖路加国際病院黒田栄史先生)

[Q&A] 2014年4月03日 [木]

facebook
twitter
google
B

痛み止めで治りますか?

もらった痛み止めを飲んだら、痛みはとれました。治ったということですか。

痛みがとれることと、治ることとは違います。痛みがなくなっても、体重の管理(肥満を防ぐ)や運動療法などの対策を続けなければ、症状は徐々に進みます。痛みは、膝(ひざ)のなかでおこっていることを体に知らせるサインではありますが、病気の本当の姿ではありません。この病気の本当の姿は、関節軟骨のすり減りです。
何度かふれていますが、この病気は、「かぜが治る」「腹痛が治る」というのと同じ意味で考えると、「治る」ということはありません。この病気の原因は、加齢、荷重、(膝の)使い方です。荷重は、体重を減らせば、取り除くことができます。使い方についても、しゃがむ、重い荷物を持つといった明らかに膝に無理を強いる姿勢や動作を避けることで、対応できます。ただし、加齢だけはどうにもならず、それによる関節軟骨のすり減りを食い止めることはできません。ですから、病気が完全に治るとはいえないわけです。しかし、すり減りのスピードを遅らせることはできますし、それによって膝の動きが妨げられることがなければ、たとえ病気をもっていても、日常生活に支障はありません。そのような状態を保つことが、この病気が「治る」ということです。
痛みは患者さん本人にとってつらい症状ですが、痛みをコントロールする目的は、それによって膝を動かさなくなり、機能が衰えることで症状が進むという悪循環を断つことです。痛みをとることは大切ですが、治療の目的ではありません。

強い痛みは、冷やす?温める?

痛みが強い場合、冷やせばよいのですか、温めたほうがよいのですか。

強い痛みが急激に生じた場合(急性)は冷やすのが基本です。ただし、痛みが完全におさまらず、長引くようなら(慢性)温めます。膝だけを温めるのはもちろん、ゆっくり入浴するなどして、全身の血行をよくすることも効果的です。
夏場の冷房による冷えも、膝の痛みにはよくありません。膝かけなどを用意して、冷気が直接当たらないような工夫をしましょう。

急性は冷やす、ふだんは温めるのが基本です

急性は冷やす、ふだんは温めるのが基本です膝かけを使う、ゆっくり入浴するなどして、膝を冷やさないように気をつけましょう。
急に膝が腫れたり痛みが激しくなったりした場合は、冷やして炎症を鎮めます。

減量のみで治りますか?

とくに薬もなく、減量のみの指導で治るのでしょうか。

まだそれほど病状が進行していない初期~中期であれば、十分に治る可能性があります。さらに、筋力を増強する運動を加えることをお勧めします。
一度すり減ってしまった関節軟骨をもとどおりに修復することはできません。そこで、変形性膝関節症(へんけいせいひざかんせつしょう)において、「治る」ということは症状の進行を食い止め、膝のスムーズな動きを保つことになります。
軟骨の変形がまだ表面にとどまっている時期なら、膝に過度の荷重が加わる肥満を改善し、膝を支える筋肉を鍛えることで、摩耗(まもう)のスピードをゆっくりにすることができると思います。それが、この病気における「治る」という状態です。

運動療法は危険ではないですか?

運動を勧められていますが、膝が痛いのにやらなければいけないのですか。

無理は禁物です。しかし、治療の基本として勧められている、膝を支える筋肉を鍛える運動は、膝への負担が少なくなっています。おっくうかもしれませんが、少しずつでも続けるようにしましょう。筋肉が強化されてくれば、症状は確実に改善されます。
一般的な運動については、膝に無理な動きを強いるものもあり、逆効果の場合があります。ウオーキングなどがお勧めですが、くわしいことは主治医に相談してください。

運動は少しずつ続けましょう

運動は少しずつ続けましょう筋肉が強化されてくれば、症状は確実に改善されます。膝を支える筋肉を鍛える運動やウオーキングを、少しずつでも続けるようにしましょう。
一般的な運動は、膝に負担がかかることもあるため、行う前に主治医に相談しましょう。

膝にたまった水は抜くべき?

膝にたまった水は抜いたほうがよいと聞きましたが・・・。

必要に応じて、抜くか抜かないかを判断します。腫(は)れが非常に激しい場合は、感染の危険などに十分配慮し、慎重に水を抜く手技を行います。
膝にたまった水の正体は関節液です。関節包の滑膜が正常に働いていれば、新しい関節液の分泌と古い関節液の回収のバランスがとれ、関節内の関節液の量はほぼ一定に保たれています。しかし、関節軟骨がすり減り、そのかけらが滑膜を傷つけ、炎症がおこると、このバランスが大きくくずれてしまいます。たまった関節液には痛みや炎症をさらに悪化させるサイトカインという化学物質が増えてしまうため、それを取り除くためにも関節液を抜く必要が出てきます。

たまった関節液が痛みや炎症を悪化させます

たまった関節液が痛みや炎症を悪化させますたまった関節液には、痛みや炎症をおこさせる物質がたくさんふくまれているので、これを抜いて炎症を抑えます。

足底板(そくていばん)の選び方は?

足底板(そくていばん)の使用を勧められましたが、選び方がわかりません。

足底板を選ぶにあたって、大切なことは、膝の変形の程度に合ったものを選ぶことです。合っていなければ、かえって症状を悪化させてしまいます。そのためには、X線写真などで、変形の程度を医師に正確に判断してもらわなければなりません。
また、仕事などで外に出かけない患者さんであれば、家のなかで使えるものを工夫する必要もあります。市販の中敷き式のものを利用することや、場合によってはオーダーメードが勧められることもあります。
患者さんの症状や環境によって、選び方のポイントが違ってきます。主治医および理学療法士、義肢装具士とよく相談してみるのがよいでしょう。

人工関節の耐用年数は?

人工関節は永久にもつのですか。

永久にはもちません。患者さんの生活のようすなどで変わってきますが、人工関節の耐用年数は15~20年といわれています。そこで、平均寿命から逆算するなどして、70歳以上の人に人工関節置換術が行われるのが一般的です。しかし、最近は人工関節の性能が進歩したことや、専門医の技術の向上、患者さんの生活の質に対する考え方の変化(できるだけ活動的な生活を維持したい)などにより、50~60歳代でも人工関節置換術を選択する人が増えてきています。ただし、早めに選択する場合にはより慎重な検討が必要です。
いずれにしても、病状をよく理解している主治医と相談して、手術をするかしないか、するとしたらいつがよいのかなどを決めるのがよいでしょう。

人工関節置換術はメリット・デメリットを検討しましょう

人工関節置換術はメリット・デメリットを検討しましょう永久にはもちませんが、耐用年数は延びています。
主治医と相談して、行うかどうかを検討しましょう。

サプリメントは効果ある?

サプリメントは効きますか。

変形性膝関節症の痛みがとれる、変形を防ぐといった効能をうたうサプリメントが数多く出回っています。しかし、実際に、患者さんを対象に研究を行って、効果が証明されているものはグルコサミンとコンドロイチンだけです。これらについては、アメリカで臨床研究が行われ、効果を示す結果が報告されています。ただし、効果が期待できるのは初期~中期で、関節軟骨の摩耗が進行してしまった進行期では効果が望めません。その意味では、できるだけ早期に、症状を悪化させないために予防的かつ補助的に用いるのが上手な使い方かもしれません。
作用として、関節軟骨を構成するおもな成分であるプロテオグリカンの合成を促進する、軟骨細胞の合成を促進する、痛みや炎症をおこす化学物質の合成を抑えるといったものが考えられていますが、まだはっきりとは解明されていません。
臨床研究で効果が示されているといっても、実際にはアメリカが中心で、日本では、グルコサミンもコンドロイチンも医薬品としては認められておらず、保健機能食品としての扱いです。毎日服用しなければならないものなので、それなりに費用もかかります。患者さん自身、病状と効果を十分検討して、使用を決めるようにしましょう。
なお、その他、変形性膝関節症に効くとして紹介されることの多いコラーゲン、ショウガエキス、コエンザイムQ10などは、効果を示す研究報告は今のところありません。

サプリメントはあくまで予防的・補助的に使いましょう

サプリメントはあくまで予防的・補助的に使いましょうグルコサミンやコンドロイチンは、関節軟骨を構成している成分の一部から作られているサプリメントです。変形性膝関節症の痛みの軽減効果や、軟骨保護作用が確認されています。
ただし、初期~中期の変形性膝関節症にしか効かず、日本では医薬品としては認められていません。病状と効果を十分に考慮して使用を検討しましょう。


(正しい治療がわかる本 変形性膝関節症 平成21年2月28日初版発行)

記事の見出し、記事内容、およびリンク先の記事内容は株式会社QLifeの法人としての意見・見解を示すものではありません。
掲載されている記事や写真などの無断転載を禁じます。

「痛み」の注目記事