腰椎椎間板ヘルニア・腰部脊柱管狭窄症についてのQ&A集(東京都立多摩総合医療センター近籐泰児先生)

[Q&A] 2014年4月03日 [木]

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ぎっくり腰との違いは?

腰椎椎間板(ようついついかんばん)ヘルニアとぎっくり腰とは違うのですか。

突然、腰に強い痛みがおこる急性腰痛の代表が、いわゆる「ぎっくり腰」です。
痛みが生じる誘因となるのは、重いものを持ち上げたり、かがんだり、腰をひねったりといった、ちょっとした動作であることが多く、とくに思い当たるような誘因がなくおこる場合もあります。
ぎっくり腰の痛みの原因は、椎間関節のねんざや靭帯(じんたい)の軽度の損傷、腰の筋膜の肉離れ、椎間板の線維輪(せんいりん)の小さな亀裂(きれつ)などによるものと考えられています。
ぎっくり腰がおこると、痛みのためにほとんど動けなくなる場合もありますが、しばらく安静を保っているうちに痛みは徐々に軽くなり、軽症の場合は数日でおさまっていきます。
治療には、軟らかいタイプのコルセットを着用する保存療法や、痛みを鎮める非ステロイド性消炎鎮痛薬、湿布剤や塗り薬などが用いられます。
ただし、急な強い腰の痛みは、腰椎椎間板ヘルニアやほかの腰椎疾患、内臓疾患などでも症状として現れることがあります。
どんな姿勢をとっても痛い、また、痛みに加えて発熱、冷や汗といった症状がみられる場合は、できるだけ早く整形外科を受診してください。

ぎっくり腰は、ちょっとした動作が引き金となっておこります

ぎっくり腰は、ちょっとした動作が引き金となっておこります立ったまま靴下をはく、急に振り向く、ゴルフのスイング、そのほかせきやくしゃみ、重いものを持ち上げるなどの動作が、ぎっくり腰の誘因になります。

おこりやすい年齢って?

20歳代でも腰椎椎間板ヘルニアになりますか。

腰椎椎間板ヘルニアは、20歳代でもおこる病気で、20歳以下から高齢者まで幅広い年齢にみられます。とくにおこりやすい年齢についての大規模な調査結果はまだありませんが、手術で腰椎椎間板ヘルニアを確認した複数の報告から類推すると、20歳代から40歳代に発症しやすく、女性よりも男性に多い傾向がみられました。
腰椎椎間板ヘルニアの手術を受けた若年の患者さんを調べた近年の研究によると、家族も腰椎椎間板の変性を原因とする痛みを経験している割合が高いことがわかってきました。こうした報告から、発症には、ある程度、遺伝的な要因がかかわっていると推測されています。とくに、10歳代の若年性の腰椎椎間板ヘルニアでは、その傾向が明らかであると考えられています。

坐骨(ざこつ)神経痛とは?

坐骨(ざこつ)神経痛といわれましたが、これはどんな病気ですか。

「坐骨神経痛」は、病気の名前ではなく、症状の名前です。腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)では、神経にかかわる症状が多くみられ、そのもっとも代表的な症状が、お尻(しり)から太もものうしろ側、ふくらはぎやすねの外側に痛みやしびれが出る坐骨神経痛です。
坐骨神経というのは、腰椎の下のほうから出ている複数の神経根(しんけいこん)が集まって構成され、お尻から太もものうしろ側を通って足の甲、裏、足先まで伸びる神経の名称です。この神経の根元の神経根がどれか1つでも障害を受けると、神経の通り道に沿って痛みやしびれが出ます。
もちろん坐骨神経そのものに腫瘍(しゅよう)ができたり、坐骨神経の通る骨盤に腫瘍や炎症があったりしても、同様の症状がおこります。このように、腰椎椎間板ヘルニアと腰部脊柱管狭窄症以外にも、坐骨神経痛が現れる数多くの病気があるので、「坐骨神経痛です」といわれ、腰の治療をしても症状が続くようであれば、腰椎以外に病気がないか原因を探す必要があります。

坐骨神経は脚の感覚や運動にかかわっています

坐骨(ざこつ)神経は脚の感覚や運動にかかわっています坐骨神経が障害を受けると、お尻から太もものうしろ、ふくらはぎやすねの外側に、痛みやしびれが出ます。

早めに手術が受けたいんですが・・・

手術がもっとも効果の高い治療法ですか?それなら早めに受けたいのですが。

腰椎椎間板ヘルニアの治療の原則は、手術を行わない保存療法です。
腰椎椎間板ヘルニアと診断された患者さんのほとんどが、手術をしなくても数週間から3カ月ほどで痛みが改善し、ふつうの生活に戻ることができます。その理由の1つは、飛び出した髄核(ずいかく)がときとともに小さくなって、吸収されるものがあるからです。この場合はMRI検査によって、患部の消失が確認できます。症状もなくなり、再発の心配もないので、手術の必要はありません。
保存療法によって症状が改善する理由のもう1つは、飛び出した髄核の大きさはそのままでも、痛みのもとになっていた神経根のうっ血や炎症がおさまるために、痛みがなくなっていくというものです。残念ながら、これは神経根を圧迫する原因自体がなくなったわけではないので、再発の可能性は否定できません。スポーツを再開した場合など、しばらくして再発することもあります。その際には、また保存療法でようすをみるのか、手術を行うのかについて、担当医に相談してください。
ただし、腰椎椎間板ヘルニアの発症早期であっても緊急手術を要する場合があります。膀胱(ぼうこう)や直腸にかかわる神経に障害がおこって排尿や排便に支障が出る膀胱直腸障害や、神経のまひによって脚の筋力が著しく低下している場合です。
腰部脊柱管狭窄症では、腰椎椎間板ヘルニアと同様に、膀胱直腸障害や、強い筋力の低下がある場合は、すぐに手術が行われます。それ以外は、保存療法が原則です。
しかし、保存療法を2~3カ月続けても効果がなく、50m以上続けて歩けない、立っていられない、そのほか日常の生活や仕事に支障が出てきた場合には手術を検討します。早めに手術を行う必要があるかどうかについては、担当医によく相談することがたいせつです。
手術をするかしないかについては、内臓のがんの手術などと異なり、患者さんの生活上の必要性に合わせて個別に判断することになります。たとえば、外を歩き回る仕事で、スポーツも続けたいということであれば、本人の希望により早期に手術をするという判断もできます。それに対して、家のなかで過ごすことが多く、それほど不便を感じていないし、腰痛もがまんできる範囲ということであれば、当面、手術はせずに経過をみてもよいでしょう。

緊急手術が必要なこともあります

緊急手術が必要なこともあります腰椎椎間板ヘルニアも、腰部脊柱管狭窄症も、保存療法が基本です。ただし、神経の障害が進行して、放置すると回復がむずかしくなる場合は、緊急手術が行われます。

運動療法は危険ではないですか?

運動療法を勧められていますが、症状がぶり返しそうで怖いです。

腰椎椎間板ヘルニア(自然消失ではない例)、腰部脊柱管狭窄症ともに、手術を行わず、保存療法によって症状が落ち着いていても、再発の可能性がないとはいえません。運動療法によってどのくらいの確率で症状がぶり返すのかについての正確なデータ、あるいは、症状をぶり返さない運動療法の明確な基準はないのが実情です。ただし、経験上、次のような運動療法の進め方が望ましいとされています。
腰椎椎間板ヘルニアでは、椎間板の水分が減りクッション機能が低下しています。衝撃をやわらげる働きや背骨の前後左右のなめらかな動きが妨げられることになり、腰への負担が増加します。これを軽減するには、腹筋・背筋の筋力を強化する必要があります。また、ハムストリングス(太ももの裏側の筋肉)が硬い人も多いので、ストレッチによって柔軟性を保つこともたいせつです。
腰部脊柱管狭窄症では、少し前かがみの姿勢をとると脊柱管が広くなり、痛みがやわらぐことが知られています。逆に、うしろに反りぎみの姿勢は脊柱管をさらに狭くして神経を圧迫することになってしまいます。ハムストリングスが柔軟性に欠けると反りぎみの姿勢になってしまいがちなので、ストレッチが必要です。また、片側の脚に痛みやしびれがある場合、痛みのある側とは逆側に前屈すると痛みなどの症状を軽減する効果があります。また、自転車こぎも有効なので、サイクリングや室内のエアロバイクが勧められます。
歩くこと(ウオーキング)は、もっとも手軽な運動療法ともいえますが、腰部脊柱管狭窄症の患者さんは、無理をしないようにしてください。年齢的に、糖尿病や肥満などほかの生活習慣病を発症している人も多く、ウオーキングを勧められているかもしれません。しかし、間欠跛行(かんけつはこう)がある場合、決して無理をしてはいけません。つらくて休憩が必要であるのにがまんして歩くと、傷んだ神経が元に戻らなくなって、神経のまひによる高度の筋力低下をおこす危険があります。休みながら無理なく歩ける範囲でこま切れに歩くようにしましょう。
いずれにしても、大事にしすぎて脚や腰を動かさない生活を続けていると、高齢であればあるほど治療中に低下した筋力をとり戻せなくなりますし、腰周辺の筋肉が硬くなり、かえって症状を再発させる要因になります。担当医の指導に基づき、ストレッチを十分にすること、痛みのない程度で腹筋や背筋を鍛え、最低限背骨の動く範囲を狭めないようにすることを心がけましょう。上手にこうした運動療法を続ければ、症状をぶり返すことなく、むしろ再発予防に役立てることができます。

運動はたいせつですが、無理をしてはいけません

運動はたいせつですが、無理をしてはいけませんいつもじっとしていては筋力の低下を招きます。そこで手軽な運動のウオーキングを始めることも多いのですが、腰部脊柱管狭窄症の患者さんの場合、無理は禁物です。痛みをがまんして歩き続けると神経の障害が悪化してしまう危険があるので、休み休みこま切れに歩きましょう。

鍼(はり)、整体、指圧は効果ある?

鍼(はり)や整体、指圧の効果は認められていますか。

腰痛に対しては、鍼、灸(きゅう)、あん摩(ま)、マッサージ、指圧、柔道整復、整体、カイロプラクティックなど、さまざまな施術が行われています。患者さんのなかには、これらの施術によって、症状が楽になったという方もいらっしゃいます。深刻なものでなければ、効果が認められる場合もあるようです。
整形外科では、そうした施術の効果を否定するものではありませんが、実際には、その有効性についてのまとまった研究報告はまだなく、今後の課題といえます。
ただ、腰痛の原因としては、腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症といった病気だけでなく、がんの脊椎転移や脊椎炎などの重い病気が隠れていることもあります。そうした診断ができるのは、やはり医療機関です。
正確な診断を受けたうえで、いろいろな施術を試してみたいときには担当医に相談してみるとよいでしょう。

痛みが出たら、まず整形外科を受診しましょう

痛みが出たら、まず整形外科を受診しましょう鍼、灸、指圧などを気持ちよく受けるためにも、まず整形外科を受診して診断を受けるようにしてください。

パパイヤ療法とは?

パパイヤ療法とは、どんな治療法ですか。

パパイヤの樹液からとれるたんぱく質分解酵素キモパパインを注入して、髄核の一部を溶かすという腰椎椎間板ヘルニアの治療法です。アレルギーをおこすことがあり、アレルギーによる死亡例もあったことから、日本では認められていません。


(正しい治療がわかる本 腰椎椎間板ヘルニア・腰部脊柱管狭窄症 平成22年8月14日初版発行)

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