腰部脊柱管狭窄症の特徴

[診断と治療法の決定] 2014年5月20日 [火]

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診断と治療法の決定(1)
症状と画像検査により適切な治療法を選択する

加齢による背骨の変性で神経が圧迫されておこる

 腰部脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)と腰椎椎間板(ようついついかんばん)ヘルニアは、腰や脚に痛みやしびれが出る病気です。詳しいことはあとで述べますが、どちらも背骨の異常によっておこります。
 腰部脊柱管狭窄症は、背骨の中央にある、脊柱管と呼ばれるトンネル状の神経の通り道が、なんらかの理由で狭くなり、神経を圧迫することによって、脚のしびれや痛み、脚の脱力感といった症状が現れるものです。
 正確にいえば、腰部脊柱管狭窄症というのは病気の名前ではなく、このような症状をおこしている背骨の状態を表す言葉です。このため、「症」をとって単に脊柱管狭窄ということもあります。
 脊柱管狭窄症は、生まれつきトンネルが狭いためにおこる場合もありますが、多くは加齢によって進行する背骨の変性が原因で、中高年以上に多く発症します。

腰部脊柱管狭窄症の特徴

神経の通り道である背骨中央の脊柱管が狭くなり、お尻(しり)から脚へとのびる神経の根元を圧迫するため、脚のしびれや痛みがおこります。

脊柱管は神経のトンネル。椎間板はクッションの役割

●背骨と脊柱管(せきちゅうかん)
図1背骨の腰の部分に当たる腰椎は5つの椎骨と椎間板で構成されている。椎骨の腹側部分の椎体と、背中側部分の椎弓の間は中空で、これが上下に細長くつながりトンネル状の脊柱管となる。脊柱管内を神経が通っている。

 背骨は1本の骨でできているのではなく、椎骨(ついこつ)という骨が24個連なってできています。上から順に頸椎(けいつい)(7個)、胸椎(きょうつい)(12個)、腰椎(5個)に分けられ、腰椎の下には仙骨(せんこつ)、尾骨(びこつ)があります。一般に仙骨、尾骨までを含めて背骨といい、専門的には脊柱と呼ばれます(図1参照)。この積み木が重なったような構造が、上体を支えながら、体を曲げたりのばしたり、ひねったりという背骨の動きを可能にしているわけです。

 1個の椎骨は、腹側にある円柱形をした椎体(ついたい)と、背中側にある複雑な形をした椎弓(ついきゅう)と呼ばれる部分からできています(図1参照)。

 椎体と椎弓の間は中空になっていて、椎骨が上下に連なっていくと中空部分がつながってトンネルのような空洞ができます。この空洞のことを脊柱管といいます。脊柱管は神経の通り道になっていて、内部に脊髄(せきずい)が通っています。脊髄は運動と知覚の両方をつかさどり、脳からの命令を体に伝えたり、体からの情報を脳に伝えたりしています。

●腰椎の椎骨の構造と神経
図2椎骨どうしはいくつかの靱帯でしっかりとつながれ、椎間板や椎間関節の部分で前後左右に動ける構造になっている。腰椎部の脊柱管内には硬膜に包まれた馬尾が通っている。馬尾から分かれた神経が椎骨と椎骨の間から左右に出て脚の方向へとのび、お尻(しり)から脚の部分の感覚や動きをコントロールしている。

 脊髄は腰椎のあたりから、馬尾(ばび)と呼ばれる細い神経の束になります。細い神経が馬の尻尾(しっぽ)のように集まっているので馬尾と呼ばれています。馬尾から枝分かれした細い神経は、椎骨と椎骨の隙間(すきま)から出て、お尻から脚を通り足先までのびています。馬尾から出た神経の根元を神経根(しんけいこん)と呼んでいます(図2参照)。

●神経の担当領域
図3各腰椎から脚の方向に向かって左右に1対ずつ出ている神経は、下半身の各領域へと分かれる。図は各神経が担当する皮膚感覚の領域。ある領域の感覚に異常があれば、そこをコントロールする神経が障害を受けていることを推測できる。

 腰椎から足先までつながる神経は、それぞれお尻や脚の担当領域をもっています。そのため、脚やお尻の症状が出ている領域を調べれば、障害を受けている神経を推測することができます(図3参照)。

 背骨を構成する椎骨と椎骨は、椎間板、椎弓どうしを連結させる椎間関節、椎骨をつなぐ靱帯(じんたい)でつながっています。特に椎間板は椎骨と椎骨の間にあって、背骨が前後左右に動く場合に、椎骨どうしが直接ぶつかり合わないように、クッションの役割も果たしています。

 加齢によって椎間板や椎骨、靱帯など、脊柱管の周囲に変性や変形がおこると、脊柱管が狭くなって馬尾や神経根が圧迫されます。これが腰部脊柱管狭窄症で、神経の障害により、脚のしびれや痛みなどの症状が出ます。

加齢によって椎間板が変性し、背骨が変形して、脊柱管が狭まる

●椎間板にかかる圧力の比較
図4

 私たちは日常生活のなかでいろいろな姿勢をとっていますが、腰に負担がかかる姿勢はどのようなものでしょうか。
 背骨の中でクッションの役割をしている椎間板にかかる圧力を調べた調査があります(図4参照)。真っすぐに立ったときの圧力を100として、ほかの姿勢の数値を示しています。これによると、あお向けに寝ているときに椎間板にかかる圧力は25で、これが最も腰に負担のかからない姿勢です。

 一方、いすに普通に腰かけている姿勢の場合は140です。立っている状態よりもいすに座っている状態のほうが、腰への負担が大きいのです。デスクワークの人は、腰にかなりの負担がかかっていることになります。また、立っているときでも、前かがみの姿勢をとると150、その姿勢で荷物を持つと220となり、やはり腰に大きな負担がかかっていることがわかります。

●腰椎部分の変性や変形で脊柱管が狭くなる
図5椎間板の脊柱管方向へのはみ出し、椎骨の変形、黄色靱帯の変性などが脊柱管を狭めて、神経の圧迫を引きおこす。

 脊柱管が狭くなる原因はいくつかあります。椎間板には常に負担がかかっているので、加齢によって水分が減少し弾力がなくなると変性して、つぶれたり、周囲にはみ出したりします。背骨の関節や椎骨間にも無理な力がかかるようになり、「骨棘(こっきょく)」という棘(とげ)のような出っ張りができて、背骨が変形します。椎体が本来の位置からすべってずれたり(腰椎変性すべり症)、背骨が左右に曲がったり(腰椎変性側弯症)して、脊柱管が狭まる場合もあります。

 このようなさまざまな変性や変形によって脊柱管が狭くなり、腰部脊柱管狭窄症がおこります。脊柱管が狭くなって神経を圧迫すると、しびれや痛みなどの症状が現れるわけですが、背骨の後方で椎骨と椎骨を連結している黄色(おうしょく)靱帯(図5参照)が変性して分厚くなってくることが、神経の圧迫に大きく影響していると考えられています。

脚のしびれや痛みがおこる坐骨神経痛が特徴

●坐骨(ざこつ)神経とかかわっている領域
図6坐骨神経が障害を受けると、お尻から太もものうしろ側、ふくらはぎやすねの外側に、痛みやしびれの症状が出る。

 腰部脊柱管狭窄症にみられる脚のしびれや痛みの主なものは、坐骨(ざこつ)神経痛です。坐骨神経は腰椎下部から出る複数の神経根が集まって、お尻、もものうしろ側を通って足先へとのびている神経です(図6参照)。腰椎部の脊柱管が狭くなり、複数の神経根の1本でも圧迫されると、その神経の通り道に沿って坐骨神経痛の症状が出ます。

 腰部脊柱管狭窄症の代表的な症状は坐骨神経痛ですが、これに関連して現れる間欠跛行(かんけつはこう)と呼ばれる症状も大きな特徴です。

 しばらく歩いていると、脚がしびれたり痛くなったりして歩けなくなるのですが、しばらく休息すると、しびれや痛みがおさまり、再び歩くことができるというもので、このような状態がくり返し現れるのが間欠跛行です。

 脊柱管は背を反らすと狭くなり、前かがみになると広がるため、前かがみになったり、いすに腰かけたりすると、痛みはやわらぎます。歩いていて痛みやしびれが強くなったときに座って休むと症状が軽くなる、自転車をこいでいても症状が出ないなどはこのためで、これも腰部脊柱管狭窄症の特徴です。

 腰部脊柱管狭窄症が悪化すると、歩いているときだけでなく、立っているだけ、あるいはあお向けに寝ているだけでも、しびれや痛みを感じるようになります。

 さらに進行すると、脚の感覚が鈍くなる感覚障害や、脚の筋力の低下といった運動麻痺(まひ)もみられるようになります。こうなると足首から先に力が入らないため、つま先を持ち上げられなくなり、小さな段差につまずくことが多くなります。

 また、膀胱(ぼうこう)や直腸の機能にかかわる神経に障害がおこることもあり、排尿や排便のコントロールがうまくできなくなったり、肛門(こうもん)や会陰部(えいんぶ)の周囲にしびれや灼熱(しゃくねつ)感を感じたりする膀胱直腸障害がみられることもあります。

 腰部脊柱管狭窄症は、症状の違いから次に示す三つのタイプに分けられています。このタイプ分けは画像検査ではできず、患者さんの訴える症状をもとに分類します。

●腰部脊柱管狭窄症の三つのタイプ
図7腰部脊柱管狭窄症は、馬尾の圧迫か神経根の圧迫かによって現れる症状が異なり、その症状の違いから3タイプに分けられている。

●馬尾型
 両脚がしびれますが、痛みはないのが特徴です。しびれのほかに、脱力感、あるいは灼熱感などを訴える人もいます。脊柱管の中央部で馬尾が圧迫を受けると、このような症状となります。脚やお尻、会陰部の知覚に異常がみられたり、膀胱直腸障害、性機能障害を伴ったりすることもあります。

●神経根型
 片側の脚だけに痛みやしびれが出るのが特徴です。馬尾から背骨の外へと出ていく単一の神経根が障害されて、症状が現れると考えられます。どこに症状が現れるかで、圧迫されている神経根が推測できます。

●混合型
 馬尾型と神経根型の両方の症状が混在しているものです。歩いていると、両方の脚がしびれてきて、さらにがんばって歩いていると、片側の脚だけが非常に痛くなる、といった場合は混合型です。

高橋 寛 東邦大学医療センター大森病院整形外科教授
1964年東京生まれ。88年東邦大学医学部卒業。同大医学部付属大森病院整形外科等を経て、98年から1年間、米国カリフォルニア大学(UCSF)留学。2004年東邦大学医療センター大森病院整形外科講師、09年同准教授、11年同教授、脊椎脊髄病診療センター長、12年任用換えにより東邦大学医学部整形外科教授。

(名医が語る最新・最良の治療 腰部脊柱管狭窄症・腰椎椎間板ヘルニア 平成25年2月26日初版発行)

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